第9話

詰めるような渉流の口振りに気圧されていた俺。


「ここから先は私が説明しましょう」


和尚が穏やかな口調で割って入った。



「最近私達が住んでいるこの清町で怪奇事件が多発しています」


シンマチカイキジケン?


「人が一夜にして腐って溶けて死ぬ………科学では何も原因が解明されない、呪詛と見られる事件です」



「一夜で溶ける?ですか」


「ええ。底知れない力の術者ですよ……かけている人間は……。これほどの呪詛は並大抵じゃ不可能」



「そんな話、俺は知りません。新聞でもニュースでも聞いたことが無い」


「ええ、あまりに信じがたい話だ。そして殺害されるのはこの町の要人ばかり。報道管制が敷かれています。この事件を知っているのは国と、警察と、そして私のようなこの町の法曹界の高僧と神社総代ばかりだ」


「俺は和尚から修行中に聞いて知っていたがね」

渉流が口を挟む。



「定児君、あなたは私の寺とそれから真悳神社の神官の下で、これから毎日修行をして貰います。私達であなたの封印の秘術を少しずつ解いていき、あなたの法力を解放する。あなたの中の荒ぶる怨霊をあなた自身の手でコントロール出来るようになって貰う」


にわかには信じがたい話だが、渉流の不思議な力は十分理解している。



「でないと長屋王の#荒御霊__あらみたま__#が狙われているということはあなたの命が狙われているも同然ですよ」

「わ、わかりました」


呆然としながら聞いていた。今更ながらに気付いたが昨日傷ついた身体のあちこちがちゃんと手当てされていた。



「こんにちわ~私、真悳神社のものです~。おやまぁ、誰も出迎えがいない。勝手に上がりますよお~」


そこへやけに間延びした呑気な一声が遠くから響いた。

玄関口の方からだ。

和尚や俺達が次々に振り向く中また誰か現れた。


「初めまして、私は真悳の神主、青森 薔山_あおもり しょうさん_と申します。これから毎日よろしくお願いしますねえ~。こう見えて私はスパルタですよ~」


まるで女のような外見をした可愛らしい顔の男だ。


長い髪を後ろで結んでいる。

服装は神主らしい装束で、白衣に紫色の袴という身形_みなり_だ。


この少々風変わりな青森神主は、俺を見詰めるとニッと笑った。

「なかなか鍛えがいが……」



その日から俺は毎日学校から返ったら二つの神社仏閣に修行に通うことになった。

放課後はせっせと吐黒山まで直行するのだった。

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