第8話

「長屋王って知ってるか?」


「長屋王?」


「そうだ。菅原道真・平将門・崇徳院の前に、日本で初めて怨霊になった皇族だよ。「#長屋王__ながやのおおきみ__#」」



うなだれて答える。


「知らない……日本史に興味が無いもんで……」



「無実の罪で一族まとめて自害に追い込まれ怨霊化した。一説には、自害じゃなく殺されたんじゃないかと言われている」


渉流は俺を見据えてはっきりと告げた。金龍和尚も厳然と笑顔無く俺を見据えている。


「長屋王の荒ぶる#御霊__みたま__#は、お前の中に棲んでいる」



「ええっ」



後ろにずっこけそうになった。



「ちょっと待てよ、17年間生きてるけど一度も俺の中に何かが入るような違和感感じたことなんか一度も無いぞ?なーんも入ってないよ」


二人の前で両手をブラブラさせておどけて見せた。


「柏木の秘術で封じ込めているからな」



「俺は霊感0だよ?お前と違う」



「視えるんだよ。定児は本当は。お前に俺と同じ力はある。封じられているから、子供の頃から視えないようにされてるだけだ」


思考が追い付いていない。怨霊が俺の中にいるって一体どうしてそんななってしまったんだ?





「平安のその昔から代々続く柏木の本家はな、お前のために存在しているんだ。お前を守るためにな。お前の中には凄まじい怨霊が眠っているんだぜ。平城から平安まで京を恐怖に脅えさせた、神にも近い怨霊が封じ込められている」


なんと!



「平安の世から、幾度も陰陽師や法士達が退治してきようとした。その度に長屋王の荒ぶる魂は人から人へと渡り移り、この現代、荒ぶる魂は赤ん坊だったお前を選んで入った。すぐさま霊波によって察知した本家は、その赤子を引き取ったのさ。我らの手でお奉りし、封じ込めるように。そして……お前の中の怨霊の力を利用しようとする者から守護するように」



なんたるデストラクションな話。



まるっきり真実味を帯びていないが、昨晩の鬼のような化け物の姿や、渉流の使った非現実的な秘術の光景が脳裏に浮かび、疑う余地はないとわかっている。

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