第3話

法要から帰り自分の家につくと、久しぶりに家族揃って思い出話なんかをしながら夕飯を賑やかに食べた。


いつもの手順で風呂に入り、歯を磨き、2階の自室に上がる。軽くテレビでバラエティー番組なんかを流し見てはすぐ消して、ベッドの上でなんとなしにぼんやりとする。


ベッドサイドのスマホからは小音でお気に入りの女性アーティストの曲なんかを流して。


その内に気持ちのよいさざ波が脳髄を寄せては返し浸水してきて、俺の意識は深いところにポトリと落ちる。





その夜、変な夢を見た。


声が鳴り響く夢だった。




「目覚めよ」


「力を目覚めさせるのだ、定児」



じいちゃんの声が真っ暗な辺りに鳴り響く。


月がポッと浮かび上がってきた。


ここは、じいちゃんの墓じゃないか。


目の前にあの墓がある。




満月の下にあるのは紛れもなく今日の昼に赴いた墓。


硬い墓石が同じ顔をして並ぶ、ここは真夜中の墓地だ。



「目覚めよ、定児」


「お前にも、我が家の者にも、この町にも、そして人間全体に、危機が降注がんとしている」


「悪しき者が近付いている。悪しき者が、お前に……」


俺は叫んだ。

「じいちゃん!」



ハッとそこで目が覚めた。

自室だった。


暗がりに見えるのは墓地ではなく自分の部屋の天井。


浮き世離れした夢だった。なのになぜか生々しい……。


呆然としばらく考えてるも、今度は寝付けなくなった。



法要の日に故人の夢を見るなんて、意味があるようで怖い。




一階のキッチンに下り冷たいお茶を飲む。


親子三人暮らしの3DKの小さな一軒家だ。


飲んでも汗が引かない。


これは暑さゆえの汗ではなく、脂汗か?


胸に何となく不安感が去来する。



台所の時計は深夜の2時を指している。


胸に這い上がる何かをふりきるように、俺はちょっと近場を散歩するため家を出た。



夢と同じ、今宵は満月だった。



人を喰いそうな、煌々とした月灯りだ。


なぜかそう思った。


人を喰いそうな、という月と脈絡の無いフレーズ。



この時間帯、暑くはない。


だが、胸のザワつきに体を灼かれそうな夜だった。



公園まで辿り着いた。


その時、自分を上から刺すような視線を感じた。



鳥か?あの月か?


まさか、気のせいか………。



だが、気のせいではなかった。

黒い人影が、木の上から僕を見下ろしていたのだ。

射抜くように。


顔は見えないし声も立てないのに、なぜか気配がこちらを見て笑っているのがわかった。



黒い影は腕をこちらに向けて突きだすように手を開き、何かを俺に向けて放った。


サッカーボールのようなサイズの塊から折り畳み収納のようにうねうねと大きくなる広がり。


それは人間では無かった。







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