Episode 4 忌まわしき痣

 休み時間。全員のノートを回収し、職員室まで運ぶという使命を課されたリオは重いノートを抱えながら廊下を歩いていた。


「ねえ、ついてきて大丈夫なの?」


 ひそひそと話すリオに対してキュリフェは元気に答えた。


「問題なーいよん♪ ほら」


 そう言ってキュリフェは前から歩いてきた男子学生をすり抜けた。リオは眉をひそめた。


「……幽霊?」

「天使だってば!」

「じゃあ、実態が無いの?」

「んーそういうわけじゃないけど……ほら、ボクがリオの頭に乗ったら重いでしょ?」


 すると、キュリフェはリオの頭に体重を預けた。確かに、少し重みを感じる。そしてふわふわだ。


「本当だ」

「でしょ? まあ、細かいことは気にせずに」


 職員室に着いたリオはふぅ、と息を吐いた。職員室はいつ来ても緊張する。


「失礼します。一年A組の狐坂リオです。ノート、持ってきました」

「ああ、ありがとう。空いてるところにおいてちょうだい」


 そう言った女性教師の机の上には百合の花が飾られていた。


「百合って今の時期に咲いてましたっけ?」

「ふふ。これね、実は造花なの。本当は六月から八月にかけて咲くのだけれど」

「きれいですね。先生が作ったんですか?」

「そうよ。一番好きな花なの」




「失礼しました」


 職員室を出たリオはチョーカーの上から痣を触った。


「……フルール・ド・リス、だっけ」

「そうだよ。フランス王家と深い関係がある紋章なんだ。『百合の花fleur de lis』って言うけど実は菖蒲なんだよね」

「この痣がある人は変身できるって言ってたよね? 他にも変身の条件はあったりするの?」

「そうだねぇ。名前を呼ばれると覚醒するんだけど、本当はボクが呼ぶはずだったのに、なぜかオレオールリリーが知ってて……今回は特殊事例だね」

「そうなんだ……じゃあ、もしフルール・ド・リスがあっても一生名前を呼ばれなかったらソルシエにはならないってこと?」

「それは無いかな」


 キュリフェはきっぱりと言い放った。


「きっとボクはソルシエを見つけ出す。言ったでしょ? ボクはソルシエのサポートをする天使だ、って。それに、ボクにとっても必要不可欠な存在だからね。キミたちがいないとボクはとっても困るよ」

「それってどういう――」

「あら、狐坂さん」


 先程の女性教師が職員室のドアから顔を出した。


「まだ戻ってなかったのね。丁度いいわ、ついでにこのプリント、みんなに配ってくれる? 来週の授業で使うのだけれど、配るの忘れてたわ。みんなには予習として読んできて欲しいの」

「あ、はい」

「よろしくね」


 職員室のドアが静かに閉まる。キュリフェの姿は、どこにも見当たらなかった。

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