【2-4】




「真弥、電話よ!」


「え? 誰から?」


 自分に電話をかけてくるような人はいないと思っていた真弥に、姉の美弥は耳元でそっとささやいた。


「坂本くん。声が聞きたいんですって」


「え? わ、分かった」


 そんなことがあった前日の夜。



『葉月、元気でやってるか? 留守番で保健の先生の手伝いしているんだってな。偉いじゃんか』


 真弥の頭の中に、昨日の電話がよみがえってきた。


 伸吾が真弥のために、旅館から電話をかけてくれた。


 正直何を話したか、詳しい内容は覚えていない。


 2,3言うなずいただけで、電話は切れてしまったけれども、真弥は満足だった。自分のことを憶えていてくれた人がいた。それが真弥には嬉しかった。


「ごめんね、一緒に行けなくて……」


 真弥はつぶやく。こんなに学校での留守番が辛かったのは初めてだった。行けなくて悔しいというのではない。


 こんなに一人が寂しいと思ったのはいつ以来だろう。


「真弥ちゃん、給食にしない?」


 保健室の扉が開いて、先生が顔を出した。


「はーい、すぐ行きます」


 立ち上がろうとしたとき、突然ふらふらとしてしまった。なぜか体がうまく動かない。


 突然その場にうずくまってしまった真弥に、先生は驚いて飛び出してきた。


「真弥ちゃん、しっかりしなさい」


「大丈夫……。急に力が入らなくなったみたいだから…」


 抱えられて、保健室の中に入り、ベットに座って息をつく。


 普段ならこんなに体が弱ってくるのは、もっと暑くなってきてからなのに。


「今日は、給食だけ食べてもう帰りなさい。そんな体じゃまた具合悪くなるだけだから」


「こんな体だものね……」


 ようやく立ち上がり、スカートに付いた砂を払う。


「でも、早退はこれ以上したくないし……」


「でも、もともとは自宅にいてもいいわけでしょう?」


「だって、昼間は家は誰もいないから……」


「そう、ご両親がどちらも働いていらっしゃるのね。じゃ、こっちにいた方がいいか」


 ようやくテーブルの上に給食のお盆を載せ、向かい合って食べはじめる。


 ぐずぐずしていると昼休みになって、保健室の中は騒がしくなる。


 一応真弥も保健委員という肩書きを持っているから、ケガをした子が来れば手当てをしている。


 でも、真弥が世話をするより、彼女が世話になってしまうことも多かったから、どっちがどっちなのか分からなくなってしまっていたけれど……。


「お姉ちゃんが帰りに寄ってくれるまで、ここにいます。今日は早く帰って来るって話だから……」


 真弥の様子を見て、先生はそれ以上、彼女に帰宅を勧めることはしなかった。


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