【1-8】
次の日の朝早く、二人は職員室で前日に受け取った書類を提出した。1ヶ月もの間休むわけだ。きちんとしておかないとあとで面倒なことになる。
書類と欠席届を見た先生は驚いていた。
「葉月、突然どうした。急に悪くなったのか?」
普通、このような大きな手術は夏休みなどに行う子が多い。
「すごく悪いって事はないんですけど……、やっぱり調子よくないんです……」
真弥は目を伏せた。クラスの中の雰囲気が浮き足立っているのに、その中に入れない。
そのことも今回の決意の背景にはある。
運の悪かったことに、まだ教員歴の浅い先生が追い打ちをかけてしまった。
「葉月は、旅行誰の班だったっけ?」
「そんな…。わたし…」
先生に答えることもなく、真弥は突然走って出ていってしまった。
「こら、真弥!」
ドアに飛びついて美弥は叫ぶ。
「あんなに走ったら絶対にまずい!」
美弥も職員室を飛び出して、ことの重要性と誰も見ていないこともあって廊下を突っ走っる。
「バカ、あんな事したら死んじゃうよ」
彼女は走りながらも、真弥の体力で行ける場所を、何カ所か見当を付けていた。一番近い所に向かう階段を駆け上がろうとしたとき、脇の防火シャッターの影に倒れ込んだ妹の姿を見つけた。
「ちょっと、大丈夫?」
抱え起こしてみると、つぶった目から涙を流している顔は真っ青、両手で胸を押さえて苦しそうにあえいでいる。
「しっかりしなさい」
姉に抱えられているのが分かったみたいで、ゆっくりと目を開ける。
「ダメじゃない、あんな事しちゃ」
「でも…、でも……」
真弥は息も苦しそうで、満足に声も出せない。
「それじゃ歩けそうもないね。保健室で休んでなさい」
美弥は真弥を背中に乗せて、保健室に連れていく。
「先生、真弥をお願いします」
保健の先生も、彼女たち姉妹のことはよく知ってるし、真弥の介抱も何度もしてくれていた。
すぐにベッドに寝かせ、制服をゆるめてやると、ようやく落ち着いて息をした。
「慣れない事しないの。私ちょっと行ってくるから。必ず戻ってくるからね」
うっすらと目を開けて、荒い息をしている真弥に言い残すと、美弥は保健室を出て職員室に戻る。
「さっきはすみません」
「どうしてしまったんだろう?」
「真弥は、修学旅行に行けないことを気にしているんです。誰とも組んでいないから、授業中も一人だって言ってましたし……」
担任もようやくさっきの騒ぎの原因を理解した様子だ。
「そうか、悪い事をしてしまった。今日もいくつかの話をホームルームで決めなくてはならないことがあるから、……。教室に来ない方がいいかもな。そう伝えてもらえないか?」
先生はそう言って、先に渡してあった病院からの書類に目を戻した。
美弥は職員室を出て、保健室に戻った。
「どう、少しは落ち着いた?」
真弥の顔にはやっと少し赤みが戻り、涙もきれいに拭いてあった。
「お姉ちゃん、ごめんなさい。あんなことして…」
まだ少し呼吸音がヒクヒク言っている。そんな妹の背中を美弥はゆっくりとさすってやる。
「先生も分かってくれたよ。悪い事したって。今日は出席扱いにするから、教室には来ない方がいいかもしれないって」
「うん……」
美弥は毎時間必ず会いに来ることを約束して、保健室を出た。
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