【1-6】
自宅に帰り着き、お風呂に入って夕食ができるまでの間、姉妹は昼間に描いた絵を仕上げていた。
「お姉ちゃん、わたしの絵は上手だよね」
真弥が楽しそうに描きかけの絵を眺めている。
「うん、賞取ったのもそうだしね。変なの。別に他を手抜きしてるわけじゃないんだけどなぁ」
風呂上がりで二人ともパジャマ姿だったけれど、真弥は昼間の服を『参考ね』とハンガーに掛けておいた。
「この間の学校新聞もお姉ちゃんイラスト出してたでしょう? いいなぁ」
美弥は美術部に入ってはいるものの、最近はイラストが中心になり、美術的な作品を描くことは少なくなっている。
「真弥は私よりお話作るの上手じゃない。ストーリーを組み立てるのが得意みたいだから……」
絵描きが得意な姉とは逆に、真弥は小説や物語を作るのが得意なことは美弥の特技以上に知られていない。
「うん。わたし、あまり表に行かないから、頭の中でお話を作るのが昔から多いかな」
「そっか……」
「ねえお姉ちゃん……」
突然、真弥がそれまでの甘えた顔から、真剣な顔つきになった。
「どうしたの?」
「あのね……、わたし……、手術受けようかと思ってる……」
突然の話に美弥はびっくりした。
「本当に? 私は……、真弥の気持ち次第だって思ってるけど……」
確かに、真弥が本来の姿を取り戻すには必要なことだとは誰もが頭の中に入っている。
もともと手術を敬遠していたのは自分たちの中にあった難手術への恐怖だったから、自分から言い出したなら素直に受け入れてあげることが必要だと美弥は思うように変わってきていた。
「わたしね、今日思ったんだけど、このままじゃ本当に何もできなくなっちゃう……」
両手を握り下を向いている妹を見て、美弥は自分自身の気持ちも改めて整理することにした。
「真弥、決心したならパパとママにも話そう。私は真弥が元気になるのずっと待ってるんだから」
恐らく反対されると予想としていたのだろうか。真弥はじっと姉を見つめる。
「本当にいいの? 昔お姉ちゃんも反対だったみたいだから……。今回も言われちゃうかなって……」
「前はね。今回は自分で決めたんでしょう? 一緒に頑張ろうよ」
「うん、ありがと……」
以前にも真弥は手術を受けることは言ったことはある。でもその時は周囲に言わされてのことだった。
手術に完全はない。もしものことが起きれば、運が良くても寝たきりの生活を余儀なくされるし、最悪なら二度と会えないかもしれない。
でも、小学校時代とは違い、自力で私立中等部に合格するなど、心身ともに成長した真弥が自分で決心したことに今度は口を挟みたくない。
夕食の時、真弥は両親にも同じ話をした。二人ともやはり驚いた顔は隠せなかったけれど、その決心が真弥自身から出たものだと理解すると、しばらくして二人ともうなずいた。
「ただな、真弥。二つ約束してくれるか?」
父親は最後に念を押すように言った。
「一つは、手術を受けることを真弥が自分で先生に言うこと。もう一つは必ず元気になると約束してほしい。これが守れるならパパとママは真弥の気持ちに任せるよ」
「うん、必ず。明日定期検診があるからその時に言うよ。頑張るから…」
立ち上がった父親に抱きつく真弥。彼は両手で軽々と真弥を抱き上げてしまった。
「真弥は今中2かぁ。ちょっと小さいな。もっと大きくなろうな。いいお嫁さんになれないぞ」
「そんなこと言って。真弥、パパはね、美弥も真弥も絶対に結婚なんてさせないって言ってるんだからね」
母親が後かたづけをしながら笑っている。
「平気、わたしもお姉ちゃんも恋人なんていないから」
「そんなの全然自慢できることじゃないでしょ!」
久々に家のリビングが笑いで一杯になり、この日は家族そろって夜遅くまで会話が続いた。
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