【1-5】
美弥がここに来るもう一つの目的が、秘密の絵の練習。
彼女は小さい頃から絵を描くことが大好きだったけれど、その才能はあまり認められていなかった。
ところがある時、この広場で遊んでいる真弥の普段と違う生き生きとした顔を見て、それを題材にポートレートを描いてみたところ、それがコンクールで大賞を取る騒ぎとなった。
『これどこで描いてるの? それとも美弥の空想?』
『こんな子、うちの学校にいたっけ? 空想にしちゃリアルすぎない?』
『さぁ、ご想像にお任せ』
それ以来、彼女の描く題材に謎の美少女キャラとして多く登場することになった。そのほとんどはこの公園で真弥をモチーフに描かれた作品だ。
普段は水彩で描くことも多いけれど、今日は色鉛筆とパステルを使ってみることにしていた。
真弥は小鳥たちに餌をあげながら一緒に遊んでいる。美弥は妹にはじっとしていなくてもいいといつも告げている。
日陰にひざを崩して座り、無邪気な笑顔で遊んでいる真弥の姿はいつもの弱々しい子とは別人のよう。
しばらく描き続けたあと、自分も日陰に入っての休憩。真弥はまた水辺に戻ってくつろいでいる。
「暑いねぇ。私が先にへばりそう」
美弥は湧き水をすくって顔を洗った。彼女も、都会でこんな場所があるとは最近まで知らなかった。
「はいこれ」
真弥がスカートのポケットからハンカチを出して姉に渡した。
「いいの? 濡れちゃうよ」
真弥は首を横に振る。美弥が受け取って顔に当てると、ほんのりいつもの香りがする。
「あ~、こんなにのんびりするの久しぶり」
美弥が仰向けになって、芝の上に寝ころぶ。真弥は甘えるように美弥の胸の上に頭を乗せた。
「お姉ちゃん、とってもいい匂い……」
うっとりと目を閉じている。
「真弥……」
美弥も動く気もなく、真弥の背中に手を当ててゆっくりたたく。小さな頃から妹と二人で過ごしてきた彼女には自然なこと。
「このままじゃ眠っちゃうよ。お姉ちゃん描かなくていいの?」
美弥は目を両手でこすりながら起きあがると、急いで残りに色を付けてみる。
「本当は絵の具で丁寧に描きたいんだけど、最近はパステルが多くてね」
「これ本当にわたし? ちょっとここまでくると別人?」
出来た絵を見て真弥が笑う。
「いいの。私にはこう見えるんだし。それにしても、絵本の挿し絵にでもなりそうね。もう少し描き込めば……」
「じゃあ、お家で仕上げてみようよ。帰ればたくさん色あるし」
「そうしようか」
ようやく日も西に傾き始めていた。二人は急いで広げた荷物を整理して、周囲に他の人の姿がないことを確認して遊歩道に戻る。
「みんな、また来るね」
真弥が一緒に遊んでいてくれた動物たちに手を振る。そんなところは本当に中学2年生とは思えなかったけど、誰もそれを止めようとはしない。
二人は薄暗くなった道を家に向かって急いだ。
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