【1-3】




 日曜日、朝から強い日差しが照りつけていて、青空に白い雲が所々に浮かんでいる。


 朝早くからお昼の弁当を美弥と真弥それぞれの得意分野で手分けをして作り準備を整えていた。


 彼女たちの両親は土曜日や休日もないような仕事だったから、二人だけで過ごすことは珍しい事でもない。


 今日の予定は事前に話してあったけれど、念のためにテーブルの上に書き置きを残してから玄関を出る。


「今日も日が強いなぁ。顔がヒリヒリする……。お姉ちゃん平気なの?」


 外に出て日を浴びると、真弥が大きな目を細めた。


 まだ9時頃だというのに今日は一段と日差しが強い。初夏と言うより、もう真夏の陽気と言った方がいいくらい。


 今日の美弥は薄手の長袖ワンピース一枚。それでも半袖にすればよかったと後悔している。


「平気って? 大丈夫よ。真弥は日焼けができないから、これからが大変よね」


 真弥は急に強い陽を浴びると、肌が黒くならずに赤く腫れてしまう日が続く。だから夏場でも何か薄い物を1枚羽織っていることが多い。


 今日も真っ白いブラウスに薄い桃色のパーカーで脱ぎ着できるようにしている。もちろんどちらも長袖が基本。


 ときどき美弥の服も選んでくる真弥だが、美弥には妹がどこから探してくるのか不思議に思っていて、それだけ妹に体形まで見られているのかと気を引き締めなければならないときがある。


「暑いことは暑いけど、真弥の体調がよくてよかった」


 今日は朝から真弥の調子もよかった。一番それが心配なだけに、美弥もほっとしていた。


 二人でバスに乗って、15分くらいで着いたのは三沢みつざわ公園。大きな運動場やトラックの周りには小さい遊び場だけでなく遊歩道や小川などもあって、春は毎年家族で花見にも来る恒例の場所。そんな桜の木々も今は緑も濃くなって気持ちのいい日陰を作っている。



 二人は運動場に面したベンチに腰を下ろした。降り注ぐ陽光の中で小さい子から小学生くらいまでが走り回ったり遊具で遊んでいる。


「真弥、顔とか平気?」


「うん。わたしもあんなふうに遊べたらなぁ」


 寂しそうにつぶやく真弥。彼女の本意ではないのに、外で一緒に遊べないというだけで、仲間外れにされていたことが多かった。そんな苦い記憶が美弥の中によみがえってくる。


「お姉ちゃん?」


 ぼんやり一人考えていた彼女の目の前に真弥が顔を出した。


「ごめん、考え事してた。ちょっと散歩しよっか」


「うん」


 ベンチから立ち上がって林の中の散歩道を歩いてると、先ほどまでの憂鬱な気分も少しずつ晴れてくる。


「よかった。真弥が元気になって」


 学校ではなかなか見せることのない妹の素の笑顔が確認できて、姉としても胸を撫で下ろす。


「ここに来ると平気なのにね。学校とか行くとすぐに気分悪くなっちゃう……」


「それが普通だよ。私だってゴミゴミしたところにいたら気分悪くなるもん」


 木漏れ日の中、美弥も久しぶりの深呼吸。ふたりとも何か嫌なことがあったり、悩み事を抱え込んだときはいつもこの場所を訪れる。



 遊歩道も公園の奥の方になると、人の気配も少なくなり、鳥の声や運が良ければリスなどの小動物も見ることも出来る、姉妹が友人たちにも教えていない秘密の場所に到着した。

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