【1-2】
一見普通に見える真弥。でも、彼女には他の子が普通にできることができない。
「お姉ちゃん、待ってて。靴履き替えてくる」
真弥は廊下を小走りに行こうとする。
「真弥、急がなくていいよ」
美弥は妹の背中に大声で言うと、自分は大急ぎで履き替えて中学の入り口へ走った。
「遅くなってごめんね」
真弥は首を横に振って、よろけるように美弥に抱きついた。
「お家帰ろ…」
美弥を見上げた真弥の顔が、普段よりも青白く見えている。
「真弥、大丈夫? 顔色悪いわよ」
「うん……。急に暑くなったからね……」
真弥は顔を元に戻すと、姉の手を引いて、ゆっくりと歩き出した。
真弥は心臓が生まれつき丈夫な娘ではなかった。
そのため体育を含めたスポーツも、外で思い切り遊ぶことも出来ない。
その影響もあり、友達も作れず目立たない存在になってしまうのは幼い頃から繰り返されてきたことだ。そんな真弥の唯一の相手は、姉の美弥だけだ。
だから体も中学2年生としてはとても小さい。そんな真弥が美弥には気の毒で仕方ない。
手術を受ければ改善することは二人とも知ってる。しかしその手術は大変難しく、真弥も決心が付かないようだったし、周りもそれを口に出してはいなかった。
「このまま歩いて帰れる?」
美弥は真弥の体を気遣って、荷物を持ってやりながら心配そうに言う。
「うん、大丈夫。心配しないで……」
5月に入っても、しばらくは寒い天気が続いていた。それがここ数日で急に暑くなっていた。そんな天気の変化も彼女の体を余計に苦しめている。
「早く帰って休まないとね」
「うん……」
彼女たちの自宅はマンションの一室。途中で休みながら帰り着き、真弥は制服から着替える前にソファーに座り込んで大きく息をついた。
「あー、やっと一週間終わったね」
真弥の言葉に美弥も笑顔になる。
冷蔵庫から冷えたジュースを出して二人で飲むと、ようやく二人とも落ち着いた。
「お姉ちゃん、わたし着替えてくる」
ようやく顔色も戻ってきた真弥が立ち上がる。
美弥もジュースの缶を片づけると着替えることにした。美弥と真弥は小さい頃から同じ部屋で過ごしている。
遅れて中に入ると、着替え終わった真弥が制服をハンガーに掛けていた。
「お姉ちゃんはこれからが元気な季節だもんね……」
真弥はうらやましそうにつぶやく。
「真弥……」
「あのね、やっぱり学校でも一緒に遊べないから……。お姉ちゃん明日時間ある?」
「うん、別に平気だよ」
真弥の訴えるような目に、美弥は自分の予定を変えることにした。
「あのね、久しぶりにお散歩行きたいなって……」
少し伏せ目で、申しわけなさそうな真弥。本当は姉を束縛したくないという思いは言葉にせずともお互いに理解している。
「いいよ、そうねまた少し動いて季節に慣らしていかないとね」
美弥と真弥の散歩とは、ちょっと離れた公園で一日過ごすことを指す。
どうしても普段は家の中で過ごす事が多い真弥と、二人で遊びに行くのが彼女たちの休日の過ごし方だった。
「じゃあ、明日行こうね」
うれしそうに声を上げる妹。これで体が丈夫ならきっと自分以上に人気が出る子なんだろうなと美弥は密かに思っていた。
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