Forever Dreamer

小林汐希

第1幕 つばさが欲しいから

【1-1】




「じゃあ、今日の授業はここまで」


 先生が教科書を閉じると、教室の中は一気に騒がしくなる。


「おわったぁー!」


「ねえ美弥みや、帰りどっかお昼でも行かない?」


 鞄の中に教科書を詰めている一人の少女に、友達が声をかける。今日は土曜日。生徒たちは授業中から放課後の予定だけは立っている。


「だって、今週私、掃除当番だよ」


「分かった、じゃあ来週ね」


「うん」


 彼女はみんなと一緒に机を寄せて、ロッカーに道具を取りに行った。


「コラッ! 掃除はどうした! サボる気?!」


 同じ班の男子が教室を出ていこうとしたのを見て、美弥は素早くモップを手に取りドアに突進する。


「おわーッ! 分かった分かった。ちゃんとやるからそんなもんで殴るなよ」


 廊下で攻撃態勢に入った彼女の後ろから、


「ねえ美弥、真弥まやちゃん来てるよ」


「えっ?」


 おそるおそる振り向くと、中等部の制服を着た妹がこっちを見ている……。その顔は半分あきれているような、周囲には姉が暴れているのを申しわけなさそうな表情で立っていた。


「ごめん真弥。すぐに終わるから、ちょっと待っててよね」


 大急ぎで教室に戻って掃除の続きに取りかかる。


 こんな時はみんな早く帰りたいと思っているくらいだ。手抜きにならない程度で、あっさりと済ましてしまう。


「真弥、待たせてごめんね。帰ろう」


 美弥はカバンを持って、教室から飛び出すと、廊下の隅に立っている妹に駆け寄った。


「うん……」


 ようやく呼ばれた中学生の妹は、少し疲れた顔をしてうなずいた。




 少女の名前は葉月美弥。黄色いリボンで作ったポニーテールがチャームポイントの私立笹岡学園高等部2年生。


 成績も学年で常に上位に入り、下級生からも教え方が上手と自習室でも人気があるけれど、実際には男子とも対等にやりあったり、絵を描いたり遊んだりすることが大好きな性格だ。


 妹の真弥は、中等部の2年生。可愛い物を集めるのが好きで、普段から大人しい雰囲気が「本当に姉妹か?」と言われてしまうほど。


 真弥の方が読書が好きなだけあって、学年の差はあれど、それこそ試験の成績順位だけで言えば姉の美弥をも上回る実力派でもある。


 それはこの学園の中等部へ在籍していることが証明している。周囲が「私立なんてとても無理だ」と笑っている中、彼女は見事に合格を果たして周囲を黙らせた。


 逆境に置かれたときの内に秘める力は姉よりも強いかもしれないと小学校で偶然にも姉妹の二人とも担任でもあった先生は証言する。


 ただ学校での姿と違い、実際の真弥はとても素直で甘えっ子でもあるし、美弥はそんな妹のことをとても可愛がっていた。


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