第5話 真実

入学式での新入生代表挨拶をこなし、各教室に帰ってホームルームとなった。


「では最後に入試成績の開示をしますので順番に取りに来てください」


僕はこれを待っていた。首席となった今、満点にどれだけ近づけたかが気がかりだった。

我が県の公立高校入試問題は記述式解答がほとんどであり、自己採点しづらいのだ。


名前を呼ばれて席を立ち、紙を受け取る。

冗談には500点中490点と見えた。

そして下段。

受験者842人中2位。

公立でこの高倍率はどうなんだろう。


「……は?」


倍率を気にしている場合ではない。首席ではなかっただと⁈つまり本当の首席は代表挨拶を辞退したのか⁈どうしてわざわざそんなことを…?


「惜しかったね」

「⁈」


突然後ろから声をかけられ、驚いて振り返る。そこには彼女、不知火灯の姿があった。

全教科満点を示すその紙をこちらに見せ、満面の笑みを浮かべる彼女。


「またか…」


つまり僕は“不知火灯を除いて”成績がトップだっただけということだ。今までと同じじゃないか。


しかし国語の150字要約や数学の最終問題で原点を受けないのは至難の業だろう。悔しいと思うと同時にどんな人間なのか改めて興味が湧いてきた。


「全教科満点とは、すごいですね。僕にはそんなことはできません」

「勉強しましたから。それから、代表挨拶を押し付けてしまってごめんなさい」


笑みを崩さず応える不知火。これは完全に遊ばれている。

朝の気分はどこへやら、敗北感と一緒に帰宅することになった。


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ノートとペンと、それから彼女 お茶飲まず @hatappe

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