第3話 当惑と期待

午後からは宣言通りジョギングに出かけた。孝介も一緒だ。

まちの北側を通る約10キロのコース。中学時代からの、2人で走るおきまりルートである。

このまちの南には海があるが、北側には山が連なっており、その向こうは隣の市である。


「おーい、まことぉ、生きてるかー」

「死んでたら返事できるか」

「けど上の空だぞー」


それはそうかもしれない。

僕の頭の中から、午前中の出来事が離れないのだ。


不知火 灯。


3年間通して県内1位なんて、余程のガリ勉か変人奇人のどちらかだと思っていた。

それが実際会ってみれば、ごく普通の同級生の女子という印象だったのだ。

裏切られた、という言い方は悪いが、ずっと自分を負かし続けてきたのが目の前の小柄な少女だという事実に実感が湧かなかったのだ。


「いやー、まぁ可愛かったし?ずっと追いかけてたんだからそういうのもわかるけどー?」


孝介はさっきからずっとニヤニヤしている。

まあこいつの考えていることは大方予想はつくが。


「そういうのじゃないって言ってるだろ」

「素直じゃないなー」


どうでもいいところで頑固というか、こちらの言うことに耳を傾けないので諦める。


「そろそろ頂上だな」


このルートの折り返し地点、赤駒山の頂上である。

たいした高さではないが、南側が海に向かって開けているのでかなり眺望は良い。


「昔はすごく高く感じたのに、今となってはそうでもないな」

「俺らが成長したってことだよ、いよいよ高校生だぜ?」

「8年くらい前だっけ?初めてここに来たの」

「ああ、小2の夏だな。親父と一緒に、3人で」


孝介の父はアウトドアタイプの人で、休日にいなくなったと思ったらキャンプ場で一泊してきた、なんてこともあったらしい。


「てことは、そろそろあの時の倍の年齢か。

衰えるわけだ」

「なに言ってんだ、人生ここからだぜ。

俺たちの未来にピースだ!」


こいつともかなり長い付き合いだが、おかげで楽しく過ごせている部分は多いと思う。

ただ孝介はもう少しワードセンスを磨いたほうがいいなと思いながら、ピースサインを作る。


パシャリ


「「また3年間、よろしくな!」」

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