第2話 邂逅

浦浜とは僕らの住むまちの南側、名前の通り海沿いの地区のことである。

その地区の小高い丘の上に、浦浜第一高校は建っている。


「よし、坂の上まで競争!」

「望むところ!」


陸上部でともに長距離を走った相手に負けられない…!


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負けた。


「だって誠実、最近走ってないだろ〜」

「とはいえ、こんなに、たいりょく、おちてたのか、」


部活を引退してからもよくジョギングはしていたが、直前期は勉強に集中するため走っていなかったのだ。


孝介のほうはといえば、僕が離脱してから距離を伸ばしたと言っていた。結果は始めから明らかだったわけだ。


「ま、俺は勝てない勝負はしないってことだ」


普段は飄々としているが、何も考えていないというのは長い付き合いの中でよく知っている。

中学時代も必死になって定期テストの校内一位にしがみついていた僕と異なり、直前でもしっかり深夜アニメをリアルタイム視聴した上で2位をキープし続けていたのだから恐ろしいやつである。


「よし、僕も今日から再開する。負けっぱなしでたまるか……?」

「ん?どしたんだ?」


今いる場所から少し先、合格者の受験番号が貼り出された板の前に1人の少女がいた。


小柄だが全体的にバランスの取れた身体、ポニーテールにまとめられたしなやかな黒髪、横からでもわかる整った顔立ち。孝介の影響でアニメを見るようになり、3次元の美的観念がやや鈍った僕にもはっきりとわかる美少女がいた。


「うお、ザ美少女って感じ。3次元も捨てたもんじゃねえな」


アニメ中毒患者、孝介をしてこの評価であった。


「しかし僕らの他にもこの時間に来るやつがいたんだな」

「そうだな、発表から1時間近く経ってるし、俺たちと同じで余裕か?」

「ん、そうかもな」


ともかく早く見て帰ろう

誰かさんのせいで体力の限界である。


「孝介、あったか?」

「あったぞ。誠実は?」

「こっちもだ」

「「よし」」


何事もなくてひと安心だ。


「あなた、辻村誠実?」


唐突に後ろから声がした。

先程の少女が声をかけてきたらしい。


「はい、そうですけど」


答えない理由も特にない。もしかしたら同級生かもしれないし、素直に答えるのがいいだろう。


「わたし、不知火灯。

 これからよろしくね」









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