第10話 丹緋ボアネは誘う

 いつものように起きて、朝御飯を食べて顔洗って歯磨いて着替えて、そしていつものように真魚と登校する。

 逸成が転校してきて早三日。真魚を取り巻く環境は変わったけれど、この登校の時間だけは変わらなかった。



「──おはよう。

「……他人行儀が過ぎると思うよ。

「そうかもね」


 ──僕と真魚に遅れること数分。

 逸成はそんな挨拶をして下駄箱を開く。


「けれど、それが今の僕との適切な距離だと思っているよ」

「……もしかして気にしているのかい?」

「僕はそこまで豪放じゃないからね」


 逸成は笑って言う。

 別に逸成のせいではないのに、逸成はどこか悲しそうに言葉を続ける。


「そういえばは元気してる?」


 空海……と聞いてすぐにはピンとこなかった。しかしそうだ。逸成はをそう呼んでいたのだと思い出した。


「うん。元気そうだよ」

「……そうなんだ。よかった」


 心からホッとした様子で逸成は呟く。

 言ってから、何故か異様に逸成との距離が遠くなった気がした。

 だから僕は咄嗟に口にしたのだろう。


「は、逸成」

「ん? なに?」

「今日の昼休み、部室に来てくれないか」


 当初の目的──『盤上遊戯部に入らないでくれ』とは全く異なる言葉を。

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