第6話 純妙逸成は驚く

 ──漆墨さんから『盤上遊戯部』と出てきたことに驚いた。

 興味あるかと問われて思わず頷いてしまったけれど、正直あまり乗り気ではない。

 そのことばかりが思考の大半を占めていて今日は授業どころじゃなかったけれど、何とか乗りきれた。新学期というのも功を奏したのだろう。


「──純妙君」

「あ、ああうん……今行く」


 SHRもいつの間にか終わり、気付けば放課後。僕は隣の席の漆墨さんに声を掛けられて二人で教室を出る。


「真魚……と、まさ──純妙君?」

「──!?」


 廊下には待っていたらしい金髪の青年が、驚いた様子で僕を見る。

 僕も驚いた。たぶん同じ理由だと思う。


「そういえばボアネには言ってなかったね。純妙君、盤上遊戯部に興味あるんだって。

 で、純妙君。彼はボアネ。私の幼馴染み」

「あー……よろしく。純妙、君」

「よ、よろしく……丹緋君」


 お互いに『初めまして』で挨拶をしたけれど、僕もボアネもどこかぎこちなさがある。


「? じゃあ純妙君、部室はこっち」

「あ、ああ……うん」


 僕は丹緋君と肩を並べて漆墨さんの後を追う。

 HR棟から部室棟へ行くには実技棟を通らなければならない。各棟への移動は各階に二つある渡り廊下を使う。

 盤上遊戯部は、部室棟の最上階──3階の端っこにある。来るまでに他の文化部の部室をいくつか見たけれど、盤上遊戯部はそれらの部室からかなり離れた場所にあった。


「ここが盤上遊戯部の部室。顧問は橘先生と佐伯さえき先生」

「佐伯先生は僕のクラスの担任だよ」


 漆墨さんと丹緋君に説明を受けながら、僕は部室へと入る。

 部室はHR棟の教室と同じくらいの広さだ。違うのは机の種類と数、そして雑多さと古さだと思う。

 他の部活棟はどうだか知らないけれど、この教室の後ろのロッカーはHR棟とは違い木製で、その上には様々なボードゲームが置かれていた。


「……チェス、将棋、囲碁、リバーシ、バックギャモン……これはホワイトパズルかな? 色々置いているんだね」


 埃を被っているものも多々あるけど。

 僕の呟きをよそに、漆墨さんはロッカーの上のチェス盤を取り出した。


「純妙君、チェスは出来る?」

「? 出来るけど……それが?」


 突然のことに、思わず疑問を口にすると、丹緋君が答えてくれた。


「ウチの部活、邪な気持ちを持って入部する人も多いから、真魚や橘先生に実力を示さないと入部は認めてないんだ」

「なるほど」


 確かに。そういう人は多そうだ。

 ならまあ──入れないのは百も承知で──僕は漆墨さんの対面に座る。


「……チェス以外でもいいんだよ?」

「いや、チェスでいいよ」


 最近はやってないからブランクはあるだろうけど……部室にあるボードゲームで、一番長くやっているのはチェスだから。


「先行は純妙君でいいわ」

「そう? それじゃあ、遠慮なく」


 僕は早速、白のポーンを動かした。

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