第20話、残されたのならば、時の進みの緩いこの場を使って、自身を高めればいい



そうして、僕が三人三様の言葉を受けた後。

今いるホールにすぅはいないんだろうなって一応辺りを見回していると。

教室へとつながる廊下の付近で話し込んでいる恵美(えっちゃん)と聖秀……オクを発見した。


珍しい組み合わせだなと思い、何気にすぅの行方知らないかな思って近づいていくと、何やら渋い顔のオクが顔を上げた。

そして、あんさんお笑い魂はどこいったんだっていう無表情のままで、僕の前まで来る。



「……おつかれ」

「え? あ、どうもな」


オクは表情を変えないままそう言うと、さっさと昇降口から外に出て行ってしまった。

どこに行くのかは気にはなったが、二人が何を話していたのかも気になったので、僕はえっちゃんに声をかけることにする。


「よう、えっちゃんおつかれ」

「あう。やっぱりえっちゃんは……やめてほしい」


いつも超然としとる割にはこういったからかいには普通にリアクションするから不思議だった。


「……じゃあ、恵美(えっちゃん)、さっきオクと何話してたんや?」


僕がそうストレートに訊くと、少しだけ考えるしぐさをした後、ポンと手を叩いてえっちゃんはそれに答えてくれた。


「ああ、きよっちのこと。……きよっちとはきよっちの未来について話してた」

「未来?」

「そう、未来。でもきよっちは私の話全然信じてくれなかったけど……」


えっちゃんは、少し残念そうにそう呟いてため息をつく。


「まぁ、今のオクちゃんって、そう言うの信じるどころか、まるで人の話聞きとうないって感じやからなあ」


オクの陽気さを奪ったんは何なんだろう。

ひょっとしたらオク自身もそれを取り戻すために、えっちゃんに話を聞こうとしていたんかもしれないが。


「信じれば、新しい未来を起こす事も変える事もできるのに……」

「そうやなあ……今のオクはブラインドで目え塞がれとる感じやな。僕も何とかここに残れたし、そろそろちょっかい出さなあかんかな。おせっかいかもしれへんけど」


僕は、願うようなえっちゃんの言葉に、何かできる事があればいいなと頷いて。


「そう言えば吟さん、ちゃんと約束守ってくれた。……さすが歩く女の敵」

「誉めるんか、貶すんかどっちかにせんかい!」


僕がすかさず突っ込むと、えっちゃんは笑顔を向けてくる。


「もちろん誉めてる。……私、吟さんが留まってくれてうれしい」

「あ、ああ。そりゃどうもな」


僕が思わず照れてそう言うと、笑顔がぐふふと悪くなる。


「これで、私も言う事ほいほい聞いてくれる召使いさんには困らない」


えっちゃんはぶかぶかのケープの袖口から例の写真をちらつかせて見せる。

言わずもがな、僕の顔は引き攣った。


「わぁーった! 分かっとるからそんなもんちらつかせんといてや! ……って、あ、それで思い出したわ、えっちゃんはすぅのこと、どこかで見なかったか?」


僕が何しにきたのか思い出し、そう言うと。

えっちゃんは再びしばしの黙考をした後、言った。


「たぶん、屋上にいると思う。何か思うことがあると、すぅは屋上に行くの……よく視た」


それは実際に見た、ということではなく。

未来を視たって言いたいのかもしれない。


「へぇ、そう考えるとその力って便利やなあ、人探しもバッチリやん」


僕が感心してそう言うと、えっちゃんはふるふると首を振った。


「そうでもない。見たい未来を見られるわけじゃないし、吟さんみたいに見えない人もいるから……」


そうか、手放しで便利なモンってわけでもないんだな。

僕はそう思い、言葉を続ける。


「ま、何でもカンペキにお見通しやと人生つまらんもんな」

「うん、完璧じゃないから……生きるのは面白い」


つらい場合もあるけれど。

そんな裏の意味も含んだ、えっちゃんの言葉と表情。

でも僕は、そんなネガティブシンキングなことは忘れて、笑顔で言葉を続けた。


「んじゃま、僕、ちょっと屋上に言ってみるわ。ありがとな、教えてくれて」

「気にしなくていい。何が起こるのかは分からないけど、きっといい事があると思うから……たぶん」


照れ隠しなのか、さあ行けって感じで、視線を持っていた本に向けるえっちゃんに。多分は余計じゃありませんかね、なんて思いつつ。


僕は昇降口を出て、屋上へと向かうのだった……。



             (第21話につづく)






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