第16話、頼もしいスタメン組連投で、はじまりの世界の獣王に挑む



僕は、結界を破られた衝撃で吹き飛ばされ、転がっていってしまって。

それを追従するように、炎を纏った馬の魔物と、闇の瘴気を纏ったヒヒの魔物が向かってくるのが分かる。


あんなのの体当たりを喰らったら楽して死ねないな。

思ったのはそんなこと。


「ま、カンタンにはいけへん思うけどなっ!」


高ポイントがどうのとかは全くのデタラメだったけど、その中には事実もある。

彼女ら四人がゴールに到着すれば、自動的に順位が確定して、試験が終わるということ。

僕はそんなことを考えながら道具袋をあさり、持ってきたとっておきを取り出す。

取り出したのは、銀と緑のツートンカラーのパンチ。


【リオン】と呼ばれる彼女は、生真面目な侍だ。 

僕は彼女の……『リオンめをお使いください!』なんていう心に響く声を受け、魔力を込めて、力ある言葉を紡いだ。


「《楔刻(シード・スクイーズ)》ッ!」


金属の激しい摩擦音とともに、生まれ出たのは虚空に浮かぶ大木ほどの大きさの、二本の銀のシリンダー。

それは、目の前に迫っていた二体の魔物を縫い付けるように巻き込んで貫き通し、地面に柱を作り上げた。


そのスピードは目で追えないほどに凄まじく、その一撃を受けた二体は抵抗する暇すらなく消えていく。



「……ここ一番で大技ってか?」


グラリとよろける身体を支えながら、僕はひとりごちた。

僕の力は、【金(ヴルック)】属性のものから派生したものだ。

僕自身に馴染み深い、魂ある物体を変質させるための道具……それを媒体にして、何もない空間に様々な効果を及ぼす。

ただ、その力の源は僕の魔力だから。

当然のように今くらい強い力だと、僕自身にも負担がかかる。


「でも、これでっ……最後や、あと一体っ」


僕は、最後に残った一匹を見据える。

そこにいたのは、橙色のワーキャットだった。

力の程は『分からない』けど、あと一匹なら何とかなる、なんて思った時。

僕はまさしく我にでも返ったように、おかしなことに気付いた。


(何で僕……彼女らにウソついてまで先に行けなんて言うたんやろう?)


僕が単独一位なんてのは嘘っぱちだ。

つまり、誰かにゴールへとつながる扉を開けてもらわない限り不合格=落第決定になる。


(こんなん強がりとか見得とかちゃうで……ただのアホやん)


本当に、どうしてこんな事になったんだろう。

なんて思っていたら……。

その答えは、目の前の魔物がくれた。



多分、見た瞬間分かってたんだと思う。

こいつは、大ハズレだって。


そう、僕が改めて認識した時。

橙色のワーキャットは眩しい光を放ち、その姿を変貌させた。


漆黒のたてがみ、大剣のような牙、虎のような体躯。

鋭い鋼のような翼に、大蛇でできた三本の尾。

確か名前は、ブラック・ロック。

……歴史の授業で習った、伝説に語られる魔物だった。 



「ははっ。洒落にならんわ。こんなん試験で出すなよ……」


多少なりともレベルアップしたから分かる。

ここの学院生で、こいつに実力で勝てるやつなんかおらへんって。


だから、大ハズレなんだ。

万が一こいつに出くわしたら死ぬかギブアップか、あるいは逃げるくらいしか手はない。

そういう訳だからあいつらに会わすわけにはいかんって、僕は無意識にもあんな行動とったんだって気付く。

このフロアに来た時点で、もうそれしか頭に無かったんだろう。


「やばいで、何か僕ちょっとカッコつけすぎやって」


僕は、そんなことを抜かしつつも。

タイマン張るためにブラック・ロックの前に立った。

こいつ倒したらほんとに高ポイントもらってもおかしくないんじゃないかって考えてしまうほど、圧倒的な力の前に。



ブラック・ロックは僕が戦う意思を見せたのを理解すると、その翼をはためかせ、猛スピードで突っ込んできた。

僕はそれを待ち構える体勢を取り、スパナを構える。


「《断鎔(ライズ・リソルーション)》ッ!」


そして、それ違いざま技を叩き込もうとするが……。

スパナは何か硬いものに弾かれ、鈍い音を響かせて手から離れてしまう。

それは、それ以上持ち続けていたら、強がりを言っているスパナの彼女が壊れてしまうからこその結果だったが。


その刹那……迫り来る黒い腕。

どしゃっと嫌な音がして、気が付くと僕は声すら上げられず数十メートル先まで吹っ飛ばされていた。

それに遅れるように、自らの血による雨が降ってくる。



「が、がはっ」


荒い息とともに吐き出される新たな血。

こりゃ、内臓イカれたか……な。ドクターストップ、あるいはT.K.Oされておかしないダメージだったが、ここには当然審判などいない。


試験中は基本的に全て学院生の判断に任される。

ギブアップしなければたとえ死ぬような目にあっても文句は言えなかった。

僕が片手で付け焼刃の回復魔法を施しながら何とか立ち上がると。

ブラック・ロックはまるでいつでも殺せる、といった雰囲気で何もせず立っているのが見えた。


「つ、つくりモンのくせしよってっ……雰囲気でとるやないかぁ!」


身体の痛みを必死に誤魔化しながら、僕は道具袋から二つの道具、蛇のような形をしたクリップと、白いホッチキスを取り出す。

当然二つとも魂在る程に愛用している、名のある彼女たちだ。

どのみち長い時間持ちそうにないし、こうなったら大技で一気に決めるっ!


「《壌鋸(ディア・ディジェスト)》ッ!』


人差し指に嵌め込んグリップを媒体として生まれでたのは鋼の竜。

竜は、その大アゴを開いてブラック・ロックを飲み込む。

そして僕はそれを確認するやいなやすかさず追撃をかけた。


「《綴気(フレイ・バインド)》ッ!」


白い光沢を放つ、ホッチキス打ち鳴らすと、鋼の竜に飲まれたブラック・ロックがいるであろう地点を起点として、五本の捻れた針が花の形を創り出す。

これで、ブラック・ロックは竜の腹の中で五本の巨大な針に貫かれているはずだった。


これなら、守備力は関係ない。

何故ならばその針は指定した場所、例えそれがブラック・ロックの体内だろうがおかまいなしだからだ。


後は、縫い付けられて動けないブラック・ロックを、鋼の竜が消化しつくすのを待つのみで。



「……どうやっ!」


僕は勝ち鬨の声を上げる。

何だかんだ言っても僕一人で何とかなるもんだって。

そう思った時。



「……【ユイズ・ヴォガ・アーヴァイン】」

「がっ……あっ」



初めて聴く、ブラック・ロックの機械的な声。

その瞬間、爆弾でも落とされたみたいに鋼の竜は弾け飛び。

暴力な力を秘めた橙色の衝撃波が、油断と自惚れごと、僕を叩き潰してゆく……。



            (第17話につづく)






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