第13話
王城に来てもダーシーはフィンリーとの会話を楽しむわけではなかった。
王室の温室や図書館、そういう場所に籠り、案内したフィンリーを放って一人の世界に入り込んでしまう。
そのダーシーを少しでも振り向かせるために自らお茶を用意するようになった。
「初めは本当に信じられないものを飲まされました」
思い出しても目を疑う。
茶葉だらけの色が濃い何とも舌触りの悪い水を飲まされる日もあった。
かと思えば、全く色もない、味も香りもない熱湯を差し出されたこともあった。
あきれ返ったダーシーはフィンリーが淹れたお茶に口を付けるのを止めてしまった。
いつしかフィンリーが用意するお茶は薫り高く、色も落ち着き、きっと味も安定しているだろうことは想像できたが、口を付けなかった。
今日、差し出されたお茶は薫り高く、やや甘い。
フィンリーも満足そうにしている。
どうやらかなり良い茶葉を使ったようである。
「フライア様はなんと仰られたのです?」
「美味しいと言って涙を流して感激していたぞ」
そりゃ、殿下にお茶を淹れていただくなんて光栄極まりない事ですからね。
胸の内で呟きながらもダーシーは口を付けるのを躊躇う。
「やっぱりだめなのか?」
「そうではありません。本当に殿下はお茶を淹れるのが上達されました」
それはいつからだろう?
助言は何度もした。
殿下の周りには見習うべき者が多くいる。それらを観察するように幾度も諭した。
不器用ながらもフィンリーは試行錯誤を重ねているようだった。
しかし、ある時を境に劇的に変わったのだ。
大方、誰かに教授されたと思っていたのだが、ふと気になった。
「殿下がお茶を淹れることを私以外、どなたがご存じなのですか?」
本来なら恐れ多い事である。
本人も初めは王子である自分が淹れたのだ、美味いに違いないと自信たっぷりだった。
誇り高い彼がべらべらと他人にしゃべるようには思えない。
フィンリーは暫く口を閉ざしていた。
言いたくないらしい。
フィンリー付きの女官か、侍女か、ダーシーは勝手に判断した。
「申し訳ございません、気になったものですから。王都に戻った際は陛下に淹れて差し上げてはいかがです?」
「いやだ」
「?」
「王子たる者、簡単に教えてはならんのだ」
言葉の違和感から、それは誰かがフィンリーに告げたものだと察した。
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