探索

 家から少し歩くと、田畑が見えてきた。そこには老人達が5人おり、それぞれ違う畑で野菜を収穫している。

「こんにちは!」

向日葵が挨拶をすると、近くにいた老婦が顔をあげた。

「おお向日葵ちゃん、こんにちは。あれ?見ない顔だねぇ。どちら様?」

「この人はねぇ、アナおねえちゃん!」

「私の名前はアナです。よろしくお願いします。ミヤコから生き延びてここに辿り着きました。」

「ミヤコから……そう、大変だったねぇ。」

老婦は労るように言い、次に優しい顔をした。

「狭いところだけど、ゆっくりしていきなね。」

「聞いて聞いて!これから一緒に山の景色を見に行くの!」

「山の景色をかい?確かにあそこはいい眺めだからねぇ。ただ、山は天気が変わりやすいから気を付けてね。」

「うん!」

向日葵は元気に返事をすると、また別の老人に向かって走っていった。私はただそれを眺めていた。遠くで老人と向日葵が話しているのを見ていると、後ろから声をかけられた。

「いい子だろう?」

振り返ると、さっきの老婦だ。

「あの子が元気でいてくれるから、私達も元気でいられるのさ。」

「そうなんですね……。」

私にはそれが理解出来なかった。他人の元気など、自分には関係のないはずだ。

「アンタももうちょっと一緒に居たら、分かるようになるよ。あの子にはそういう力がある。」

その言葉の意味が分からず立ち尽くしていると、向日葵が帰ってきた。

「ごめんね時間かかっちゃって。早く行こ!」

向日葵はそう言うと私の手を取り、前へ進みだした。少し乱暴に引っ張られ、私は後をついていった。


 向日葵に連れられてこの村を見て回り、おおよそのことが分かった。この村は5年前に起きた事件から逃げ延びた人達が作った村で、総人口は20人ほど。女性が少し多いが、老若男女幅広く生活している。彼らは裁縫と農業と建築に分かれ、それぞれ分担しながら仕事をしている。何というか、生き延びる最低限を全員で行っているという印象を受けた。

今は向日葵に連れられて、山道を歩いている。傾斜は厳しいが、道は通りやすい。恐らく、何度も人が通って均されたのだろう。

「ねぇ、アナおねえちゃん」

ふいに、向日葵が話しかけてきた。

「アナおねえちゃんのお母さんって、どんな人?」

「さぁ、知らない。私にはお母さんがいなかったから。」

「そっか……。ごめんね、こんなこと聞いて。」

沈黙が訪れた。何となく嫌な雰囲気だ。私から話を振らなければならない気がした。

「向日葵のお母さんは、どんな人?」

「お母さんはね!とっても優しい人なの!」

向日葵は嬉しそうに話し始めた。

「わたしにも優しいし、村のみんなにも優しくて、すごいでしょ!怒ってるときもね、お母さんは怖い顔してるつもりだろうけど、全然怖くないんだ!わたし、お母さんのこと大好き!」

そう言いながら、とびきりの笑顔をした。束の間、彼女はハッとし、

「ごめんね、こんなこと話して。」

と謝った。

ふつふつと湧き上がってきた疑問があった。それを聞こうと、私は口を開いたが、

「あ、着いた!こっちこっち!」

彼女の声にかき消された。

向日葵に付いて行くと、そこは広場のような場所だった。ベンチが一つ置いてあるのと、木の柵で囲われている以外には何もない。

「見てみて!ほら!」

彼女に言われたとおり見てみると、そこには村を一望できる場所があった。田畑や家、そこで働いている人達も見える。なるほど、確かにすごい景色だ。しかし、イマイチ見通しが悪い。少し不思議に思っていると、向日葵も同じように疑問を持っていた。

「あっ、曇っちゃってるね」

空を見ると、来るときは確かに太陽が出ていたのだが、今は見る影もなかった。

「でも晴れの時はね、もっと綺麗なんだよ!もっと遠くの方の山まで見えてすごいんだ!」

彼女は私の方に向き直った。

「また絶対見に来ようね!」

そう言って、とびきりの笑顔を見せる。次に向日葵が切り出すまで、私はずっとその顔を見ていた。

「さ、雨が降る前に帰ろっか。」

そうして、私達は来た道を引き返していった。

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