出会い
村に近づいてまず見えたのは、簡易的な木造建築の家々だった。その奥には田畑があり、森があって山がある。人はそこまで多くなく、ミヤコのように賑わった様子もない、穏やかな場所だった。私が村を見渡していると、一人の少女が駆け寄ってきた。
「おねえさん、どうしたの?」
稚気な顔をしており、髪の毛は肩にはかからないほどの長さで、前髪はたれておでこを覆い隠している。肉体の特徴は、4,5歳ほどのそれと一致する。
私が返答に困っていると、後ろから母親らしき人が駆け寄ってきた。
「向日葵、ここに居たのね?探したわよ……って、どちら様ですか?」
こちらは、大人びた顔と長い黒髪、白い肌、か細いように見える体。年齢でいうと30付近だろうか。顔の類似性からして、親子と見て間違いないだろう。
落ち着きを取り戻した私は、返答をした。
「ミヤコから何とか生き延びて旅をしていたら、ここにたどり着いたんです。」
「あら、そうだったのね。長旅で疲れたでしょう?うちに上がっていくといいわ。」
その女性は、なんの躊躇いも無くそう言った。こうして私は、人間の家に上がりこむことになる。
母親に連れられてやってきた家は、あまり広いところではなく、2,3人ほどが生活できるぐらいの大きさだった。その一室に案内され、私は椅子に腰掛けた。
「いやあ、驚いたわ。まだ生き残っている人がいたなんて。」
テーブルを挟んで向かい側に腰掛けて、母親が話を始めた。
「私もです。しばらく人間を見ていなかったもので。」
「5年前の事件以来、だいぶ人は減っちゃったものね。」
彼女は寂しそうにどこかを向いた。少しの沈黙のあと、向き直って話し始める。
「でもね、ここはとてもいいところよ。きっと気にいるわ!」
彼女の瞳は、まっすぐ私を見ていた。
「そうだ、名前。お名前はなんて言うの?」
名前。考えたこともなかった。アンドロイドの中で固有の名前があるのは一部の支配階級のみで、私のような任務をこなすだけの存在には、番号とアルファベットしか割り振られていない。自分だけの名前……。
「……アナ。私の名前はアナです。よろしくお願いします。」
「アナ、素敵な名前ね。私は小百合。ほら、向日葵も。」
テーブルの下からぴょこっと顔を出して、少女が元気よく言った。
「わたし向日葵、5さいなの!よろしくね、アナおねえさん!」
どひきりの笑顔が私に向けられた。
「よろしく。」
私はそれを黙って見ていた。
「ねえねえ!見せたい景色があるの!付いてきてくれる?」
「向日葵、アナは長旅で疲れてるんだから、あんまり迷惑かけちゃダメよ?」
そう言われると、向日葵はシュンと悲しそうな顔をした。さっきまでは笑顔だったのに、コロコロと表情が変わる。
「いえ、私は大丈夫です。それに、ここを少し見て回りたいので。」
「ほんと!とってもきれいなんだ!早く行こ!」
彼女はまた笑顔になった。
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