第35話 放課後の買い出し①
「ところで、今日から俺は有栖の家に行くんだよな」
「そうですね」
「夜ご飯食べたいものとかある?」
これから夜ご飯を作っていく上で、好みの問題とかもあるので確認は必要だ。
「リクエストは無いですね」
「スーパー見て、ぱっと決めてもいいか?」
「はい、私も隣で何か言うと思いますし」
「あ、そうか。隣に有栖いるのか」
最初は一人で買いに行くと考えていたが、有栖も一緒に買いに行くので、とやかく考える必要はなさそうだ。
「……私を置いていくつもりだったんですか?」
俺の発言からして、そう捉えられても仕方がない。
「いや、今までは基本一人で買い出しとかおつかいとか頼まれたり、やってたから、今回も一人だと思ってた」
「要約すると、私の事を忘れていたって事ですよね」
「そういう事ではないが、そういう事でもあるな」
有栖はプルプルと震えながら、顔をバッと上げた。頬を膨らませているので、少し怒らせてしまった。
「酷いです!」
「ごめんって、プリン買ってやるから」
「子ども扱いしないでください!」
「ブロッコリー買うから」
「な、ブロッコリーを馬鹿にしないでください!」
もう何に怒っているのか分からないが、拗ねている有栖はとにかく可愛い。昨日家に行った事で、揶揄いのネタがさらに増えたので、今後も楽しみにしている。
「もう、すぐに私を馬鹿にして」
「馬鹿にしてるわけじゃない」
俺が揶揄うたびに、有栖は『馬鹿にしないで』と言うが、俺自身馬鹿にしているつもりはなかった。
馬鹿にしているという言葉の意味は、相手を自分より下にいる劣っている人だとみなして、侮る事を指すので、馬鹿にはしていない。
こんな正論を言ったところで、また拗ねるのであえて言わない。
「支払いってどうすれば良いのですか?」
「お金の使い方分からないの?」
「違いますよ。食費を半分半分にすると言っても、どんな支払いにするのかを聞いているのです」
「それは考えてなかったな」
確かに半分ずつという事だけを決めて、大事な支払い方法を決めていなかった。
「一度私が支払ってレシートとか貰いますので、その後に半分って形でいいですか?」
その提案は楽だし良い案なのだが、本当にこれで良いのかと迷う。
「んー、有栖がいいならそれで良いか」
「決定ですね」
別の案を考えるのも面倒なので、この案にさせてもらった。ちゃんと支払うわけだし、何も問題はない。
「すまんな、迷惑をかける」
「迷惑をかけるのは私の方なので、お互い様というやつですね!」
俺が使ったお互い様という言葉を、彼女はまだ覚えていてくれた。その事が嬉しく感じる。
「ニヤニヤされてますけど、どうかしました?」
「……成長を感じたというか、」
出会った頃と比べると凄く変わった有栖を見ながら、残りの弁当を食べた。
「先教室戻るわ」
「……………………よね」
「ん?なんて?」
「お、お気をつけてと言いました!」
教室に帰るだけで何を気をつける必要があるのか、さっきボソッと呟いた時には違う言葉だったような気がしたが、特には気にせず教室に戻った。
「お、光星!彼女とはどうだった?」
「彼女じゃねぇっつーの」
「いたっ」
茶化すように話しかけてきた秋良の尻を軽く蹴る。
「お前今彼女いたっけ」
「えっ、もしかして………俺を狙ってるのか?」
「もういいです」
「ごめんごめん。居ないよ」
今委員長の事を紹介しても良いのかと悩みながらも、紹介することにした。
「委員長の事どう思う?」
「高岡さんだったけ?」
「そうそう、どう?」
中学の頃からの仲だが、俺から恋愛の話に持っていく事なんてなかったので、今俺の事を滅茶苦茶怪しんでいる。
「お前、朝話してたな。その時に何か言われたな」
「おっしゃる通りです」
数秒でバレてしまった情けなさを感じる。物事を計算しながら話をするのはどうも苦手だ。
「可愛いとは思うな」
「それ伝えてくるわ」
「馬鹿なのか?そんなん伝えたら俺が好きみたいじゃないか」
恋の戦力とは難しいものだ。中学からモテていた秋良は、その手の事にもある程度知識があるようだった。
「もし伝えるなら、話した事ないから話してみたいって伝えろよ」
「分かった」
秋良がそういうので、メッセージを送る。
「光星、連絡先交換してんの?」
「してるな。言っておくが、俺から登録したんじゃないぞ」
「………ま、返事きたら教えてくれよ」
俺に何か伝えようとした秋良だったが、いうのをやめた。
昼休みと昼食時間も終わり、残すは2時間となった。学生にとって、この2時間は睡魔との戦いになる。そう覚悟しながら、残りの授業に取り組んだ。
元歌い手の彼女を甘やかしてみた 優斗 @yutoo_1231
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