第33話 日曜日の終わり

「さて、そろそろ食べるか」

「そうですね。お腹空きました」



もう完全におなか空いたと言っている。ちょっと前までは否定していたのに……。眠ってしまったから三代欲求の事を忘れたのだろう。




「有栖は座ってていいからな」

「皿を運ぶくらいしますよ」

「こぼすなよ?あと落とすなよ?」

「分かってますよ」



台の上に出しておいた皿にご飯を盛り付ける。チーズなんかを乗せてもおいしいだろうが、今回は買ってないので断念する。



保温しておいたカレーのルーを上からかける。ほんのりと香るカレーの匂いとそこから少しだけ出ている湯気が、これは絶品だと主張してくる。




「はい有栖、熱いから気をつけろよ」

「あつっ!」

「だから気をつけろって言ったろ?」

「熱いと言っただけで、こぼしても落としてもないですから」



そう言われると事実なのだが、見ていてとても心配になる。将来子供が出来たらこんな気分なのかな?と思いつつも、自分の分は自分で運ぶ。




「食べても良いですか?」

「あぁいいぞ」

「"いただきます"」



二人できちんと食材に礼を言う。スプーンにカレーと米を合わせて乗せて口に運ぶ。甘口と中辛の組み合わせは初めてだが、どちらの良さも引き立っていて美味しかった。




「美味しいですね。これなら何杯でもバクバクいけそうです」

「そんなに慌てて食べなくてもカレーは逃げないから」



今回の有栖宅で行われた料理指導は、結果として8割以上を俺が作ったが、毎日ここに来れるという権利を手に入れる事が出来た。しかも合鍵も受け取った。




「ご飯が進むなぁ」

「分かります」



俺は正直、カレーより今回の戦利品の方がご飯が進んだ。当然例えだが、それ程までに嬉しかった。




「毎日作ってくれるのですもんね」



有栖自身も喜んでいるのか、何度もその事を口にする。



(今告白すれば付き合えるかな?)



そう思ってしまうが、失敗した時が怖い。この関係も今までの事も全てが無駄になるし、崩れてしまう。



なので、今のこの距離感で良い。告白は一緒にいる間にいつかチャンスが来るはずだ。




「何度も言うが、有栖が出来るようになったら…」

「出来るようになら・・ないですよ!」

「ならないのか?なれないじゃなくて?」



カァァという効果音がつきそうな勢いで顔が赤くなる。



「………勘違いしないでください、噛んだんです」

「いやどうみても…」

「噛んだんです!」



有栖が俺の料理を気に入ってくれた事と、俺自身な事も多少なりとも好んでくれてはいるのが分かったので、もう満足だ。




「ごちそうさま」

「ごちそうさまです」



カレーを食べ終わったので、残すは皿洗いだ。皿洗いと言っても、基本的に普段から行っているので苦に感じたい事はない。




「皿洗うから、自分の皿持ってきて」

「分かりました」



台所に皿を持ってきて、蛇口をひねる。その他の道具もあるので、大変な作業にはなりそうだ。



食器用洗剤とキッチンスポンジを手に取って泡立てた。




「すみません。皿洗いまでさせてしまって」

「割れるよりかはマシだから」

「ありがとうございます。……割りませんけどね」



泡立った泡と蛇口から出る水で、有栖がやると滑り落としそうなので、今回はやらせなかった。




「ふぅ…」



皿洗いを終わらせて、俺もソファに座った。机の上には、元々家に置いてあったらしいプリンとスプーンが置いてあった。




「ぜひ、そちらのプリンを召し上がってください」

「いや悪いよ」

「色々やってもらいましたし、感謝の気持ちを込めた、ささやかなご褒美という事で」

「ささやかなんかじゃないぞ、これは有栖の感謝という付加価値が込められているからな。凄い価値だ」



自分で思い返しても、とてもクサイ事を言ってしまった。有栖はそんな事を気にも止めていなかった




「食べてくださりますよね?」

「食べる。甘いもの欲しかったし」



プリンの蓋を剥がして、スプーンを差し込み、すくい上げた。そのまま口に入れる。甘い味がしたと思ったら、苦い味がくる。



プリンを食べ終わった後、有栖に話す事があるので、有栖の方に体の向きを変えた。




「分かってるとは思うけど、俺たちのこの関係は学校では秘密だぞ?」

「分かってますよ」

「後、他人のように接してくれよ?」

「友達なのに……ですか?」



有栖が悲しそうな目をする。俺だって本当なら学校でも有栖と話していたい。しかし、周りの視線やら噂やらが広まってしまうと面倒な事になりそうだ。




「有栖、俺以外の人と話さないじゃん」

「失礼な、私だって友達くらいいます。友達少ないのは光星くんです」

「……友達、な」

「あ、それは確かに話さないです」



有栖に馬鹿にされたのは無視して、俺以外の男と話さずに、俺だけと話していたらまた疑われる。すでに屋上の件で目をつけられているので、気をつけなければいけない。




「そうなったら、話せないですね」

「そうは言っても、昼飯は一緒に食べてるじゃん」

「そうでしたね。なら良いです」



あの使われていない実験室で二人で食べているので、それで納得してくれるのなら良い。




「いつか、光星くんを友達だと言い張る事が出来ますかね」

「有栖が男友達を作れば問題は解決だな」

「……精進しょうじんします」



有栖が男友達を作れば、俺だけと話しているという認識はされない。今の有栖の性格で接すればすぐに親しくなれるのだろうが、そう簡単にはいかないし、屋上の件の後に男子と一悶着あるので、中々に難問でもある。



そこは有栖のペースで頑張ってほしい。



「じゃあ、俺帰るから」

「……明日からは普通に学校ですもんね。…少し寂しくなります」

「え?」



それは俺ともっと居たいという認識で良いのだろうか。俺も少し顔に熱が昇る。




「何でもないです!さ、さようなら」

「ま、また明日!」



最後にびっくり発言があったが、ここまで心を開いてくれたのには素直に喜びしかない。こんなに最高な日曜日ももうすぐ終わる。


月曜日が始まる憂鬱さと、明日からの楽しい日々を想像しながら、家に帰るのだった。






*久しぶりに本編書いたから、内容少し忘れてたってのは内緒。その影響で有栖さんが数倍甘々な性格になっているかもしれません。


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