第32.5話 起床

俺が目を開けた時、有栖はまだ俺に膝枕をしていてくれた。



「おはようございます」

「……おはよう」



有栖より長い時間寝ていたらしく、体は軽くなったが、ここから動きたくない。




「ぐっすりでしたね」

「気持ちよかったしな」

「なっ………ありがとうございます」



直接感想を伝えるなんて、とても恥ずかしい事をしたと発言してから気がついた。寝起きの時はついつい口が緩んでしまう。




「ご飯、炊けてましたよ?」

「触ってないよな?」

「えっと………」



今の問いに沈黙が必要ということは、有栖は炊き終わったを触ったのか?そう思ってしまう。



つつくくらいはしましたよ?」

「は?つつく?言い訳しなくてもいい、本当は手の平とか当てたんだろ?」

「何で分かるのですか……」



バレたという顔をしている有栖は、ほんのりと頬が赤くなっていた。米をつつくって何だよ、もっとマシな言い訳をしてほしい。 



だいたい、米を触ろうなんていう思考が出てくる事自体、意味が分からない。




「熱いかっただろ??火傷とかしてないよな?」

「火傷?何の事ですか?」

「いやだから、触ったの?って聞いたじゃん」

「はい、それでどうやったら火傷を………」



有栖は途中で発言をやめた。気になるので追求してみる。




「何だ?続きを言ってくれよ」

「何もないです」



どう聞いても教えてくれなそうなので、今の会話を振り返る。違和感があるのはつつくという言葉だ。




「あっ、分かった」

「………言わなくていいですから」

「俺の顔…」

「口に出さないで下さい」



小さな手が俺の口を押さえた。押さえられる側の気持ちを体感しながらも、彼女が手をどかしてくれるのを待つ。




「何だよ。俺が触ってもいいって言ったし、そこまで恥ずかしがらなくで良いだろ」

「恥ずかしがってないですから」



言動と表情が合っていない。口ではクール振りながらも、顔はとっても可愛らしい表情をしている。




「けど、なんか追求されると、…………恥ずかしくて嫌です」



下を向いているので、髪で顔が隠れてほとんど見えないが、髪の間から見える真っ赤な顔と細く天使のような目をした有栖は、口では言い表せないくらいに可愛い。



ソファの上で、小さく手をぎゅっと握りしめているので、仕草も含めてより可愛い。




(何これ?えっ?可愛いすぎんだけど……)



俺史上、最も脳内で可愛いという言葉が出てきた瞬間だった。




「結局恥ずかしいんじゃないか」

「うっ……口が滑ってしまいました」

「俺の顔に手の平当てたのか?」

「………はい」



本当は怒ってもないし、むしろ嬉しいという感情が湧いてきているのだが、いつもより可愛い反応をするので、イジリたくなる。




「どうだった?」

「どう!?……それは、言わないと駄目なんですか?」

「駄目だな」

「だったら、光星くんも感想を言うべきです」



俺だけが感想を求めて、有栖には感想を言わないのは確かに不平等なので話す事にする。生憎、俺は頬っぺたを両手でモフった事はバレていない。




「柔らかくてぷにぷにで、男とは違う感触だよな。さすが女の子って感じだ」

「上手くまとめましたね」

「感想だしな、有栖は?」



まだ内容をまとめきれていないのか、無言のままうつむいている。付き合ったらこんな感じなのか、そんな淡い夢を見ながら有栖が口を開くのを待った。




「ちょっぴり柔らかくて、男の子って感じの触り心地で、なんだか落ち着きます。また触りたいって思いました」

「いつでも触ってくれ」

「………機会があったら触ります」



そんな機会を設けるのはとても大変だが、俺もまた触りたいので、未来の自分に期待した。






*三日振りの投稿申し訳ないです。これからは、二日に1話を基本に頑張るので、愛想つかさずに読んでくださると嬉しいです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る