第31.5話 実食前
「……それにしても無警戒すぎだろ」
何一つ警戒する事なく、防御力ゼロの状態で眠っている。さっき俺の手から落ちた時の反動で、前髪が上に上がっていた。後ろで結んだ髪も解いていたようだった。
前髪で隠れていた顔の面積も露になって、いつもは見えない所まで見える。
「綺麗な寝顔だな……」
長い
最近では出会った時と比べると全然クールではないが、それでもどこかにクールさの面影を見せていた。
そんな有栖の寝顔は、ゆるゆるで年相応の女の子っぽいが、前髪が上がっているので幼さを感じさせた。
表情や言動は幼くないのだが、元々顔つきが幼いので余計そう見えてしまう。
「この状態がまだ続くのか」
膝が痛い訳ではなく、光星がどこまで理性を保てるかだった。理性を保つとはいっても、今の光星の頭の中は、頬っぺたをモフリたいという衝動に駆られていた。
そう考えてしまうのは無理もない。目の前には一目惚れした美少女がいて熟睡している。さらに、モチモチしていそうな真っ白で柔らかそうな頬は見ていて誰でも触りたくなる。
光星の手の中に埋まってしまいそうな程小さな顔は、今なら触っても誰にもバレないので
二つの巨峰も目に映るが、頬っぺたを触りたい欲求の方が断然強かった。
(いいかな?触っても)
有栖の顔の前まで手を伸ばしたが、触れはしなかった。
(ヘタレだな!俺は!)
触る直前になってビビったのか、それとも理性が踏みとどまったのか、行動に移せない。まだ触ってみたいとは思うのだが、それだけだった。
『ぶっぶー』
俺の意識を逸らすかのように、妹からメッセージが届いていた。有栖に一緒にいる時は見ないでと言われたが、妹だし、有栖は寝ているので妹からのメッセージを見てみる。
「おにぃ、有栖さんの家でこれから毎日ご飯作るってまじ?」
午後から遊びに出かけていたらしく、今母からその話を聞かさせたようだった。
ここで否定してもいずれはバレるし、否定した所で何の意味もないので、本当の事だと伝える。
「作るぞ」
「………複雑な気持ち」
「なんの気持ちだよ」
高校生同士で、毎日家に行ってご飯を作るのはおかしいと言われると思ったが、そんな事はなかった。
「おにぃの恋愛がうまく進んで嬉しい気持ちと、家でたまに一人になっちゃうから寂しくなるなっていう気持ち」
一人でご飯の準備は出来るが、一人で食べるのは寂しいらしい。妹は中二なので、そういう面ではまだまだ幼かった。
しかしそうなってくると、迷ってしまう。妹と一緒に食べたいという気持ちと、有栖とも食べたいという気持ちが同時に生まれる。
両親は土日は家にいるのだが、平日はいない事が多いので一人にさせてしまう事が多くなる。
「なんてね、嘘だよ!」
「ん?何がだ?」
こちらが色々と考えている時に送られてきたメッセージだった。
「実はね、来週というか来月なんだけど、ママの会社の社長さんが前いた社長さんに変わるんだって」
「へぇ〜、そうなんだ」
それの何が嘘という話に繋がるのか全く見えてこない。大人しく次の言葉が送られてくるのを待つ。
「そうしたら、勤務時間も変わるんだって。だから一緒にご飯食べれるんだ」
「なるほどな」
母の働いている会社は入社時刻がすごく遅い。通勤時は電車の遅延や車の渋滞が多いので、通勤時間を遅らせて、遅刻などを減らすような考えからきた案だそうだ。
その分終わるのが遅いので、帰ってくるのも当然遅くなってしまう。
前の社長に戻った場合は、普通の入社時間と退社時間になるらしく、夕食の時には家にも帰ってこれるらしい。
「ママが言い忘れたって言ってたからさ、おにぃは家の事考えてそうだし、一応報告しといたよ。だから、家の事は何も考えなくていいからね」
「おう、ありがと」
「おにぃも頑張れ!」
気遣いの出来る優しい妹を持ったものだ。頭の片隅でずっと浮かんでいた問題が解決された。
母が俺と有栖の約束の許可をくれたのは、今の話もあってのことだったのだろう。
家に妹を一人で居させるのは心配だったが、母自身が早く帰れるようになったので、家に俺の必要性がなくなった。
(それって俺、可哀想じゃね?)
結果として有栖との約束を何不自由なく行う事が出来るのだが、本当に家に居場所がなくなりそうで怖い。
今までは夕食を作る事でまだ居場所を感じていたが、もうここから先は親に甘えている未来しか見えない。
いつか自分で働ける年になったら、親孝行をできるように励もうと決心するのだった。
「ていうか兄よ、有栖さんと一緒にいるのにすぐにメッセージ見んな、」
一つ前のメッセージとは違う口調で送られてきた。自分からメッセージを送ってきておいて酷い言いようだ。客観的に見てその事は事実だが、今は状況が状況なので許されるはずだ。
「その有栖は今寝ている」
これまですぐに返ってきていた返信が、急に遅くなった。既読にはなっているのだが、メッセージが返ってこない。
「だったら今すぐ帰ってきなさい」
ようやく送られてきたメッセージでは、帰宅を求められた。俺も有栖を一人で寝かせてあげたい気持ちは山々なのだが、ご飯とルーを二人分残して帰るなんて出来る訳がない。
「生憎とまだご飯を食べていないし、完成もしていない」
「何やってんの」
普通にキレられるので、画面上なのに妹の考えている事が伝わってくる。
「もうすぐ出来るから心配するな」
「ならいいけど」
妹が、母親の立場でメッセージを送ってくるので、兄としてこれで良いのかと思う。
「じゃあ、ちょっとだけ頬っぺとか触れば?笑笑」
「いいのか?」
「いいと思うけど、もしかして寝ているのを良い事に、バレなきゃいいやとか思って触ろうとした?」
「触ってはないからな」
何故見てもないのに俺の思考が分かるのだ。俺が分かりやすい思考をしているだけなのか、妹が凄いのか、そのどちらかだが、そのどちらもという可能性もある。
「うわぁ、変態だ」
「触ってもいんじゃないのかよ」
「触っても怒りはしないと思うけどさ、」
触って良いのか悪いのか明かされる事はないが、触っても怒られないのなら是非とも触りたい。
「ま、がんばりな、変態兄よ」
「変な認識をするな」
そう送ったが、返事が返ってくる事はなかった。一度目は俺の中のストップが効いたが、怒られないと知った今、俺の中には俺を止めるものはなかった。
『ふにふに』
ついに、柔らかくてぷにぷにの頬を触ってしまった。もう後には引けないので、後悔しないよう両手で堪能する。
(さっき触れた時の5倍は柔らかい)
有栖の体制を直す時にも頬に手が当たっていたが、こうしてモフモフするのとでは全然弾力が違う。
「んっ……」
吐息混じりの呻き声が鳴ったが、まだ起きたわけではなかった。一度呼吸を整えて、再度触る。次は指で
男とは違う柔らかさと感触にいつまでも突いてしまいたくなる。
そこでやめておくべきだったのだが、調子に乗ってどんどん
力が強かったのか、有栖の
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