第18話 新キャラ登場

今日は待ちに待った勉強会と料理指導だ。昨日の夜のうちに集合場所と時間をメールでやりとりしていた。


「時間とかの希望あるか?」

『一時に図書館に現地集合でお願いします』

「分かった。昼ご飯はどうする?」

『昼ご飯は各自で食べましょう』

「了解」


そのメールを確認しながら荷物を確認する。勉強道具、エプロン、その他必要そうなものも持ったので荷物確認はバッチリだ。


光星がここまで準備確認に徹底している理由は、女友達と二人きりで遊ぶのが初めてだからだ。昨日は色々ありほとんど一緒に一日を過ごしたが、きちんと約束をしてから遊ぶという事は光星の人生の中で初めての事だった。


それが原因なのか、昨日はぜんぜん寝ることが出来きなかったのに朝は早く起きてしまったので、睡眠時間はかなり短かった。何を考えたのか、約束の時間までまだ一時間あるのに家から出てしまった。


待ち合わせ場所は市内の図書館なので、光星の家から徒歩で30分とちょっとかかるくらいの距離だった。普段ならバスなどの公共機関などを利用するが、今回は約束までの時間が一時間と時間に余裕があるので、目を覚ますためにも歩きを選択した。




『あれ、宮地君?』

「……あ、こんにちは」



図書館は街の中にあるため通行人や車などが多く通っている。そんな所を歩いているので顔見知りと遭遇する事は珍しい事じゃない。


信号待ちをしていたらしい女の人に話しかけられた。


(誰だっけ、)


まだ完全に頭が起きていないのか、どこかで見たことあるような顔なのだが中々思い出せない。


同い年くらいの見た目なので同じ高校か、同じ中学の卒業生だろう。名前を聞けばピンとくるかもしれないが、今のところは何も思い出せない。




『へぇー、結構オシャレなんだね』

「……そういう君もオシャレだと思う」



初めての遊びということもあり、服装にもそれなりに気を使っていたので直接言われるとなんだか気恥ずかしかった。一方のまだ誰だか思い出せない女性も白のタートルニットに黒のジャンパースカートがとても似合っていた。




『ありがと、………ところで、もしかしてなんだけど私の事知らない?』

「大変申し訳ないんだけど、俺の記憶からは出てこない」

『あはは、正直だね』



俺が挙動不審な受け答えをしていたからか、一瞬でバレてしまった。謝罪の意味を込めて深く頭を下げるが、女の人は可笑しそうに笑っていたので怒っているという訳ではなさそうだった。




『一応同じクラスの委員長やってるんだけどな、』

「え、そうなの」



どこかで見た事がある顔だと思ってはいたが、まさかの同じクラスの委員長だったとは。有栖とは別のジャンルの可愛さを持つ委員長は、美人という言葉が似合いそうだった。


黒く伸びた髪がなんだか風なやられて、妙に色気を感じる。




「ごめん忘れてた。確か…た、たか、おかさん?だったっけ?」

『そうそう。名前だけは覚えててくれたんだね!

高岡桜たかおかさくらだよ。今度は忘れないでよね!よろしくね!』

「よろしく」



会話をした事で脳が働いたのか、少しずつ頭の回転が正常な状態に戻っていく。


同じクラスの女子、しかも委員長の事を忘れるのはまずかっただろう。光星には女子との接点もないし、高岡さんとは話した事もないので顔は分からないのは仕方のない事だった。まだ名前を覚えていたのでギリギリ許される範囲だったのかもしれない。




『じゃあ、私行くね。バイバーイ』

「気をつけて」



待っていた信号が青に変わったので、高岡さんは信号を渡っていった。出会いも急ならば、別れも急だった。


これといって話す事もなかったが、彼女にとって信号待ちの合間時間にはちょうど良かったのかもしれない。


俺はまた目的地へと向かって歩き始めた。




「まだいるわけないよな」



約束の場所に30分前に到着した。もしかしたら有栖も早く来ているかもしれないと思い周りを見渡すがそれっぽい気配は見つからなかった。


いくら行動に移すのが早い人でも30分前に到着する人はいないだろう。俺は近くにベンチがあったのでそこに腰掛けた。隣に自販機もあったので、ついでに炭酸ジュースを買った。



『ぷしゅっ』


炭酸のペットボトルを開けた時の音が出てくる。30分歩いた後は水かスポーツドリンクが良いのだろうが、刺激が欲しかったので炭酸を選んだのだ。


炭酸特有の刺激が喉にくる。歩き疲れた後に炭酸を飲むのは体にも良くないのだろうが、思わずハマってしまいそうなくらいに癖になりそうだった。




『ピコンッ』



マナーモードにしていなかったので携帯の通知が通知音と共にくる。見てみると新規の人からメッセージが来ていた。誰かなと見てみると高岡桜からのメッセージだった。




『桜だよー、勝手にアドレス追加してごめんね!』

「いやいや全然気にしなくていいよ」



アドレスを追加してまでメッセージを送ってきたという事は、何か要件があるのだろうか。買った炭酸をちまちま飲みながら待っているとすぐに返信がきた。




『ところで、こんな時間にオシャレしてたけどデートだったりする?笑』

「そういう高岡さんこそ、オシャレしてたけどデート?」



何か要件があるわけではなく、ただデートかどうか気になったから連絡してみたという感じだろう。変に勘づかれても面倒な事になりそうなので、違和感なく話をそらす。


俺と有栖が屋上で二人一緒に遅れて来た時も、周りの人達に変に勘づかれて噂が立ったので、ここで新たな噂を流されてしまうと有栖に迷惑をかけてしまう。




『なるほど、教える気はないのね』

「なんのことだか分からない」

『誤魔化したね。けどデート楽しんでね!』

「デートじゃない」



返事を返し終わった後、デートという言葉を意識してしまう。



「デート、か」


つい口に出して考えてしまった。今回の目的は勉強と料理なのでデートではないだろう。そもそもデートとは何なのか。


一説によるとデートというのは男女が日時を決めて会う事を指すらしいので、その考え方でいくと今回の約束はデートに入るのかもしれない。


好意を抱いてるもの同士か、どちらかが好意を抱いている状態で遊ぶ事を普通はデートと呼ぶそうなので、俺の中では今回の約束はデートだと勝手に思い込む事にした。




『私たちってデートするんですか?』

「デートの定義から考えるとそういう事になるが、それは個人の感じ方とかで変わるそうだ」

『どうゆう事です?』



後ろから声が聞こえたので振り向くと有栖がいた。



「びっくりした!有栖か?随分と早いな」

『本当はもっと早くについてたんですけど、誰かさんが楽しそうに女性の方とメッセージのやり取りしてたので』

「それは、そうだけど……そうじゃない」



俺が図書館前に着いた時には有栖の姿は見えなかったので、俺が炭酸を飲みながら高岡さんとメッセージのやり取りをしていた時に着いたのだろう。




「一時集合なのにやけに早いな」

『光星くんなんて、私よりもっと早いじゃないですか』

「寝ぼけてたんだよ」

『そうなんですか』



冗談混じりで有栖に言うも正論をぶつけられてしまう。有栖は俺に思っている事があるからか、急にムッとしながらこちらを見てきた。




「…有栖、俺何かしたか?」

『はい。しました』



有栖がムッとなるような事をしたらしいが、全く心当たりがない。流石に集合時間の30分前に来たから怒るという事は無いだろうし、必死に過去の自分を振り返るが悪い事をした覚えはない。




『分からないんですか?』

「はい。何も分かりません」

『では教えてあげます』



正解発表はすぐに行うらしい。俺としては有栖が嫌になる事はしたくないのでその正解発表は真剣に聞く。



『……あの、今から私と遊ぶのに他の女の人とメッセージするのは駄目です』

「ん?」



束縛が激しい彼女みたいな発言をした事に有栖は気づいていないらしい。分かりましたか?と言わんばかりに顔を覗き込んでくる。


確かに本人の前で他の女とやり取りするのは良くないが、さっきは俺は有栖が後ろにいる事に気づいていなかったので不可抗力だと分かって欲しい。




「分かった、もうしない。けど理由でもあるのか?」



何か理由があるから俺に忠告してきたのだろう。だとしたら俺はその理由を知りたい。




『理由はありますけど……』

「教えてくれ」

『そこまで知りたいんですか?』



上目遣いをしながら照れたようにされると直視できなかったので視線をそらした。俺の服をぎゅっと掴んだ後に口を開き始めた。




「知りたいな」

『……私と一緒にいるのが楽しくないのかなって思っちゃうんです』

「そんな事思うわけないだろ」



有栖の中で、一緒にいる時に他の女の人とメッセージのやり取りをする事は自分といるのが楽しくないという認識をしているらしい。


そのせいで関係がギクシャクするのも嫌なので、メッセージのやり取りは極力控えよう。控えるといっても今後は女の人とメッセージのやり取りなんてする機会はないだろうから心配はしていない。




「時間より早いが、図書館の中入るか」

『ですね。こんなところで待ってても意味ないですからね』



約束の時間よりは早いが、図書館の中へ入っていった。




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