第17話 掃除終わり

「とりあえず、ゴミの分別は終わったな」

『私も終わりました』



ハプニングはあったものの、作業に戻ってからは順調に進んでいた。ソファの上には有栖のブラがまだ露出されていた。


全部が見えているわけではなくて、有栖が抱いていたクッションを元あった位置に戻したので、ブラ紐だけが出てきているといった状態だった。


有栖は気づいていないようだったが、俺はずっと気づいていたのでチラチラと視界にいれてしまう。


有栖の部屋は全体的に白を基調とした家具などが多いため、ソファの色と馴染んでしまい中々気付かないのかもしれない。


しれっとソファの近くに誘導したいが、その近くには掃除するものがない。




「掃除機をかけたいんだが、借りてもいいか?」

『はい。では持ってきますね』



有栖がリビングから立ち去ったので、しれっと気づかせるための作戦を考える。思いついた方法は二つあった。


一つ目は"掃除機をかけるからソファに座って"と言いソファに誘導する作戦だ。一番安全で違和感のない作戦なのだが、有栖がクッションの下にあるブラに気付かない可能性がある。


"クッションの下とかも確認しといて"と言い残して、後は掃除機に取り組み何も知らなかった風を装うことが出来るが、突然クッションの下の確認をさせてしまっては違和感を覚えさせるかもしれない。


二つ目は、あえてクッションを動かしてから掃除機をかけるという作戦だ。この二つは一見似ているようにも見えるが全く違ってくる。


バレないように自然にクッションを動かすというのは結構難しいのだ。動かすなら有栖がリビングにいない今だろうが、失敗すればしれっと気づかせる事は出来なくなる。


そもそも俺が帰るまでに有栖がクッションの下に気づかなければ、その前後は俺には関係ない。しれっと気づかせる作戦二つよりも、バレないように取り繕う方が簡単なのかもしれない。


そもそもの疑問だが、どうやったらクッションの下にブラが入り込むのだろうか。




『掃除機持ってきましたよ』

「ごめん。俺も一緒に行って持つべきだったな」



真っ白な細い腕には、掃除機すら重そうに見える。




「これ、かなり良い掃除機じゃん」

『そうなのですか?使った事ないし分からないですね』



一度はお嬢様なのかと疑った事もあったが、やはりお嬢様とまでは行かなくともかなりのお金持ちなのだろう。


掃除が出来もしないのに、超一流の有名ブランドの掃除機が携えてあるのだ。




『うふふ』

「どうしたんだよ」

『いえ、光星くんは本とか家電とかにテンションが上がるのだなって』

「別に悪い事ではなくないか?」



本や家電にはそれなりに興味があるので仕方がない。本はお小遣いで買えるが、家電は高校生のお財布には優しくないものが多かったりするので、今こんな掃除機を目にすると多少テンションも上がったりする。




『悪い事ではないですけど、男子高校生なのに歳に似合わない趣味だなって』

「俺の歳でも家電好きなやつはいっぱいいるぞ」

『そうかもしれないですけど、男子高校生といえば何というか……あっち系の興味を持つ人が多いのかと』



有栖の口からそのような話題が出てくるとは思わなかったが、ここに来る時もそういうデータを見せたりしたから、頭に残っていたのかもしれない。




「その話は掃除機をかけ終わってからでいいか?」

『…別にそこまで話したいわけではないですけど』

「なんか悩みとか相談があるのかと思ってたんだが」

『……その通りですね』



悩みとか相談ごとがあるらしいので本来はそちらを優先したいが、今日の目的はあくまで掃除なのでそれを終わらせてから相談を受けるべきだろう。


俺が掃除を行なう範囲はリビングとその周辺なので、俺が掃除機をかけている間は有栖は自室の掃除を行なうようだった。




「ふぅ、終わった」



掃除機をかけ終わったところで、残る掃除は二回目の洗濯だけとなる。一回目の洗濯は有栖が取り込んで外に干したので、二回目も心配はないだろう。


二回目の洗濯を始める。一回目の時は気づかなかったが、この洗濯機もドラム式の有名ブランドだった。




「それで、相談っていうのは何だ?」

『相談って程ではないんですけど』



ソファに腰掛けると、目の前の机にはお茶が用意されてあった。コップが二つあったので一つは俺のだろう。



「このお茶飲んでいいのか?」

『そのために用意したので』



掃除中は一滴も水分をとっていないので、喉が乾いていた。冷たいお茶を乾いた喉に流す。




「相談じゃないとするなら何だ?」

『……疑問ですかね。その、男の人って女の人に対する視線とか気にしないんですか?』

「あー。なるほどな」



有栖が視線を向けられるのは有栖が美少女だからだろう。男ならすれ違った時に美少女がいたら、二度見をする事だってあるだろう。有栖は胸も大きめなので、より視線を集めやすいのだろう。


男というのはそういう生き物なので対処の仕様がない。それで困っている人もいるから何とかするべきなのだが。




「有栖はよく嫌な視線を向けられるのか?」

『そうなんですよ。女の人からしたら自慢に聞こえるかもしれないですけど、結構見られたりする事が多くて』

「それは有栖が可愛いからだな」



可愛いと直接いうのは恥ずかしいし、言われた有栖も恥ずかしそうにしていた。


けれど有栖にはその自覚が足りないのかもしれない。実際視線を向けられるのは避けられようがないので、一度その事を自覚するべきだろう。



『…周りの人よりは整ってるとは思ってますし、掃除はできなくても肌や髪はきちんとお手入れしてます』

「じゃあ、視線を向けられても仕方がないって分かるんじゃないか?」

『そうなんですけど、えっとその…』



自覚はあるようだった。むしろあの顔で自覚がなかったら、この世の女子は自分に自信なんて持つことは出来ない。


そこまで理解しているのに何が有栖の中で引っかかるのかが分からない。モジモジとしたまま有栖は何かを言い出そうとしている。



「言いたくないことだったら、言わなくていいんだぞ」

『……私は、、』

「私は?」

『やっぱりまた今度でいいです!』



最後だけ言わずに終わるのは一番気になるが、強要するのは良くないことだ。また今度と言っているし、話す気はあるという事なので今は急がなくてもいいだろう。




「有栖、言っておくが視線を向けてくる全員が変な目で見てるわけじゃないぞ」

『そうなのですかね』

「中には仲良くなりたい人とかもいるかもしれないからな」



彼女の中では視線を向けてくる人はほとんどが変な視線を向けていると思っているのかもしれないが、中には親しくなろうとしている人もいるだろうから見極めて欲しい。


視線を見極めるなんて、口で言うのは簡単だけどそれを行おうとするととても難しい事だ。ただ俺は中には優しい人もいるということを知ってほしかった。



『まぁそんな事分かってますけど』

「なんだよ。なら良いんだけど」



結局有栖は何を言いたかったのだろう。まさかとは思うが、俺が性的な目で見ていると思っているのだろうか。




「今の話って俺関係ある?」

『そうですね。大ありです』

「そうか、」

『安心してください、光星くんが変な視線で見てるって思っているわけではないですよ』



優しい笑顔を浮かべながら言われると、真偽はどうでも良くなってくる。誤解されてないなら心配する必要は無くなるが、余計に謎が深まった。




「もうこんな時間か」



時計を見ると七時を回っていた。こんな時間まで掃除を行なったのは久しぶりだ。夜ご飯もあるのでそろそろ帰宅をしなければならない。




「有栖、もうすぐ晩飯だから俺そろそろ帰る」

『光星くん』

「なんだ?」

『今日はありがとうございました』



今日一の笑顔を向けられる。何度かハプニングや大変な場面はあったけど手伝って良かったと心から思えた。




「またいつでも呼んで良いからな」

『そんな事はもうありませんよ!』



えらくドヤっとしているけど、今日の作業を見る限りやり方が分からないだけで手先は器用だったので、今後は大丈夫だろう。


アリスの家を出てからは明日の事しか考えていない。今日も楽しかったのに明日も続くと思うと、最も楽しい土日になりそうな気がした。












*本編中の有栖の心情=(有栖が光星に自覚はないけど恋心を抱き始めている)



(言えるわけがない、他の人にはあまり見られたくはないけど、光星くんにはもっと見て欲しいなんて!!…………この気持ちは何でしょう)




↑作中で光星に言おうとしてた事。本編ではもっと先の話で出てきます。

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