第2話 クールな有栖さん
『今年からこのクラスの担任になりました。
大人とは思えない程、小柄で童顔な顔立ちの担任からの挨拶がチャイムと同時に鳴り響いた。
俺は、一時間の校内探検を終えたあとに教室に戻ってきていた。俺が教室に戻った頃にはすでに何人かの人が来ていたので、きっと彼女も退屈をせずに済んだのだろう。
俺はもう一度挨拶をしようと思って辺りを見渡したが、彼女の姿は見当たらなかった。
『それでは、入学式があるので体育館に移動してください』
担任のその言葉を聞き、クラスメイトたちは体育館に向かった。
体育館に入って、席についてもしばらく経っても彼女の姿は見えなかった。もう式典が始まるのに、担任も気づいた様子がない。
まだ自己紹介もしてないので顔が分からないのは仕方がないが、人数確認すら行わないのはどうなのだろう。
気がつくと式典は始まっていた。結局彼女は式典を休んだのだと思ったが、次の新入生代表挨拶というスピーチで俺の考えは変わった。
彼女がそこに立っていた。そして彼女がステージにたったことで会場の流れが大きく変わった。
『え、めっちゃ可愛くない?』
『あんな可愛い子がこの学校にいるの?』
なんて声が周りからたくさん聞こえてきた。
(一番最初にあの子と話したのは俺なんだよ!)
と対抗心を抱きつつも、彼女のスピーチに耳を傾けた。
『暖かな春が訪れるとともに、私たちは本日入学式を行うことが出来ました。高校3年間という短い時間ですが、勉学に励み、友との絆を育み、自分で責任を取れるようになる。そんな生活が出来たらと思っています。先生方やご来賓の方々におかれましても、これからの厳しいご指導のことよろしくお願いします。一年新入生代表、黒崎有栖。』
簡潔にまとめられた挨拶を話した彼女は、顔色ひとつ変えることなくステージから降りていった。
(
この後、教室で自己紹介を行うだろうから大したことではないが、今ここで名前を知ることができた。
その後の式典はなんの心配もなく無事に終わった。この後は、教室に一度戻りHRがあって帰宅となっている。
教室に入り、HRが始まったらすぐ、担任がニコニコしながら何かを思いついたような顔をしていた。
『まず最初に席替えしようか♪』
自己紹介もせずにいきなり席替えを始める担任には驚いたが、席替えという小さなイベントに対して学生は盛り上がるもので、俺自身も少し楽しみにしていた。
「番号は……5番だから、窓側の席の一番後ろか。」
かなりいい席を取ることが出来たが、正直俺は場所よりも気になっている事があった。それは俺だけではないだろう。クラスの男子みんなの考えが俺と一緒だった。
『あら、隣は貴方でしたか』
そう言われて横を見てみると黒崎有栖がいた。こんなテンプレな展開でいいのかと思ったが、手放したくもないのでシンプルに心の中で喜んでしまった。
「代表スピーチ、とても良くまとめられていたね」
『ありがとうございます』
やはり冷たい対応だが隣の席ということは、今後チャンスがありそうなので入学式当日からワクワクしてしまっている。
「俺、宮地光星。よろしく、黒崎さん。」
『こちらこそお願いします。宮地さん。』
軽く挨拶を交わした後、特に話すことも無くなってしまった。それは彼女も同じだったようで隣で本を読み始めていた。
しかし、そんな平穏な時がいつまでも流れるはずがない。HRが終わり、その後の終礼が終わると同時に嵐のこどく彼女の周りに人だかりができた。
俺は隣で盗み聞きをしたのだが。その会話内容はひどいものだった。
『有栖さんってすごく可愛いね!』
『有栖さん髪きれい〜』
『有栖さん、目大きいね』
そんな質問が飛び交うばかり。その質問の全てに
『そう、ありがとうございます』
その一言だった。だが、その質問が出てくるのは仕方がなかった。
髪は綺麗な銀髪のロングヘアーで、目は碧眼でサファイアのような輝きを持っていた。顔立ちも整っていて、絵に描いたような美貌を具現化したようなそんな顔だった。
そんな彼女の周りは、最初は大人数だった人の渦も今では1人も残っていない。
「いくらなんでも冷たすぎない?」
『初対面の貴方になぜ、そんな事を言われないといけないのですか』
その言葉は、心に針を刺されたようだった。しかし彼女は一瞬少し落ち込んだような顔をしていた。
彼女は彼女で、"冷たい"と言われる事を気にしているのかもしれない。俺はそんな事を考えてしばらくの間、下を向いていていた。
『また、貴方に余計な心配をかけさせてしまいました』
「そんなことは考えていない」
『………そうですか。』
彼女は納得いかないような顔をしたものの、すでに帰る準備を始めていた。俺は帰る準備を始める前に、校内では使用を禁止されているスマホの画面を見た。
『先に帰っとくね♡』
母親からの通知にそう記されていた。入学式の日に息子を置いて先に帰るのかと思ったが、受付時間を間違えた挙句、教室に投げ込む両親なので可能性を否定出来なかった。仕方なく、俺もそろそろ帰ろうと荷物をまとめていた
『きゃっ…!』
そんな声が聞こえてきた。横を振り向くと、彼女が転んでいた。おそらくバックを机か椅子に引っかけたのだろう。
『ズドォン!』
と音を立てて転んだ彼女は、背中を天井に向けるようにして転んでいた。スカートはめくり上がり、真っ白の太ももとその先の布までが露出していた。
「黒」
大丈夫?と聞く前に、俺の脳はそう反射的に言ってしまっていた。彼女は顔を真っ赤にして、涙目になっていた。
『………最低。………変態』
言い訳をする間も無く、彼女は走って教室から出て行ってしまった。おそらく嫌われたし、軽蔑されたかもしれない。それでも、彼女の表情と太腿と、その先にあった布は一生忘れられない思い出になるだろう。
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