第1話 始まりの朝

 さくら季節きせつに、俺は両親りょうしん高校こうこうに来ていた。今日きょうは高校の入学式にゅうがくしきだ。



 この高校は一応いちおう進学校しんがっこうであるものの、案外あんがい校則こうそくゆるいので結構けっこう人気にんきがあるのだ。



 おな中学ちゅうがくの人も、何人なんにんかはここの高校に入学にゅうがくしている。さっそく両親がけに行ったので俺はちかくでっていた。



 っているあいだひまなのでまわりを見渡みわたすと、新しい生活せいかつの始まり、人生じんせいおおきなおも一部いちぶになるはずの大切たいせつなのに、やけにひとが少なかった。



高校の先生せんせいであろう人達ひとたちはちらほらとえるのだが、新入生しんにゅうせいらしき人達ひとたちは一人も見当みあたらない。



 そんな事を考えていると両親がもうわけなさそうな顔をして近づいて来た。





『ごめんねぇ。受付開始時刻うけつけかいしじこくよりも一時間いちじかんはやくちゃったみたいだわ』




 道理どうりで人が少ない訳だ、というか全くいない。普通ふつう入学式にゅうがく時間じかん間違まちがえるのかと言いたくなったが、きちんと時間を確認かくにんしなかった自分もわるいのでとくに言えることはない。





一回いっかいいえもどるの?」

流石さすがにめんどくさいわよ。けど、先に教室きょうしつに行ってていいみたいだし行ってくれば?』

「一時間もはやく教室行って何すればいんだよ」




 そういうと母はニコニコ笑っていた。父にたすけをもとめるもやわらかなかべていたので、母と同じ考えということだろう。




『教室のドアはじてるけど、鍵はいてるらしいから、いってらっしゃい』

ぼくたちも体育館たいいくかんで待っておくよ』




 時間を間違えた挙句あげく、何もない教室に一時間もほうもうとする両親りょうしんの考えにはあきれたが、両親も体育館で待つらしいので俺は仕方しかたなく教室にかうことにした。



 一年いちねんの教室は3階にあるので、階段かいだんのぼっているとうたこえてきた。



 やけに上手うまいので音楽おんがくでもながしているのかとおもったが違った。3階に上がり自分の教室のある所に行こうとしたが、自分の教室のドアがいていることに気がついた。



(かぎいてるけど、ドアはめてるって言ってなかったか?)



 母に言われた事を思い出しながらも教室に近づく。歌はあきらかにそこからこえてきた。



 とおった歌声うたごえとそんな歌声から出ているは思えないほどの声量せいりょうみみかたむけながらしばらくいていた。



 このまま時間をごすのもなんだかもったいないので教室に入ることにした。



 そこには、朝日あさひまどからくるかぜ綺麗きれいなロングヘアーのかみなびかせながら歌を歌っている美少女びしょうじょがいた。



 思わず見惚みとれそうになるほどに教室と綺麗きれいにマッチしていた。つくえの上には灰色はいいろのマフラーがいてあった。




綺麗きれいな歌声だね。歌でもやってたの?」




 俺はそうつたえた。彼女はなにきたかからないといった表情ひょうじょうをしたが、少しずつ状況じょうきょう理解りかいしたのかちょっとだけ顔をあからめた。





『まだ受付開始時刻うけつけかいしの一時間前なのに、どうして貴方あなたは教室にいるんですか?』

「俺の両親が受付開始時刻を勘違かんちがいしてて、一時間はやく教室にまれた」




 こうなる事は予想よそうしていなかったのだろう。初対面しょたいめんの人に歌声を聞かれたからなのか彼女の顔はさっきよりも赤くなっていた。




『人の歌をみ聞きするなんて失礼しつれいな人ですね』




 唐突とうとつに言われた。不可抗力ふかこうりょくなのにそんな事をいわれるとはらつところもあったが、彼女の顔がねたような顔をしていたので、それをわすれるくらいに可愛かわいらしいと思ってしまった。




「別に聞きたくて聞いたわけじゃない」

『すみませんね。聞きたくもないのに聞かせてしまって』

「いや、そういう意味いみで言ったわけじゃなくて」




誤解ごかいこうとしたらさらに誤解ごかいんでしまった。




「誤解を生むような言い方した俺が悪いけど、本当に綺麗な歌声だと思うよ。やっぱり歌やってたんじゃない?」




 俺がえらんだ誤解を解くための最適解さいてきかいめる事だった。彼女も俺の意思いしに気づいてくれたのか、少しホッとしたような顔をした。




『そうですか。少しキツく言ってしまってごめんなさい。でも私にはそんな資格しかくないので』




 最後さいごに気になる事を言っていたが、おそらく過去かこに何かあったのだろう。追求ついきゅうする訳にもいかないのでれなかった。




『ごめんなさい。初対面なのにへんな事言ってしまいました。余計よねい心配しんぱいをさせてしまったならごめんなさい』




 俺が何かを考えている事を見抜みぬいたのか彼女に言われた。そう言った彼女はどこかさびしそうな顔をした。




「別にそんな事考えてないから、あやまらなくていい」

意外いがいやさしいんですね』




 俺にはそう言う事しか出来なかった。彼女はニコッとした後に教室を出ようとしていた。流石さすがに初対面の人と今から一時間も一緒いっしょつのはいやな所があったのだろう。




「マフラー忘れてるぞ。それと教室からは俺が出るから、お前は教室に残ってくれ」

『あ、ありがとうございます?』




 そういって俺は教室を出た。俺は彼女の名前すらる事が出来できずに会話かいわわらせてしまった。



いくら初対面とはいえ対応たいおうがクールすぎるし、仲良なかよくなるつもりはないといった感じだったが、俺はそんな彼女に一目惚れ《ひとめぼれ》してしまった。



 今思いを伝えても絶対ぜったいに伝わらない事は分かってるし、ぎゃく距離きょりられそうなのでやめておく。元よりそんな勇気ゆうきはないのだけれど。



 そうして、特にてもない俺の一時間弱におよ校内探検こうないたんけんはじまった。






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