作戦会議
「よし、ではどうやったら紅葉が甘えてくれるか作戦会議をしようじゃないか」
「おー!」
昼休憩。
紅葉が相も変わらず他のクラスメイトに囲まれて昼ごはんを食べている中、俺は教室の隅っこで遠藤と卓を囲んでいた。
「そういや、一輝は?」
「部活の会議があるから一緒に食べられないって。だからこうして私になんのメリットもない人と食事を共にしているんだよ」
「言い方」
に涙が出そうだ。
「まぁ、一番頼りになりそうな人材がいないのはかなり心苦しいが……」
「待って、春斗くん。それもそれで言い方に難があると思うんだよ」
いや、こういうのは彼女持ちの男子に聞いた方が心強いと思うんだけど?
というより、俺は朝の出来事を忘れてはいない。
「私はね、これでも紅葉ちゃんの一番の親友としての自負があります」
「の割には、現在進行形で一緒にいないけどな」
「それは友達と彼女に見捨てられた春斗くんが可愛いそうだからって思ったから」
「見捨てられちゃいねぇよ」
人を悲劇のボッチに仕立て上げるな。
涙がさっきから止まらなくなっちまうよ。
「そんなところで! この学校の中で私以上に紅葉ちゃんに詳しい人はいないんだよ! つまり、どうやったら紅葉ちゃんが甘えたくなるのか……私には理解できるもんね!」
朝の件がどうしても脳裏に過ぎるが……実際問題、紅葉の親友であるということは紛うことなき事実。
一番知っているのは俺を除けば……俺を! 除けば! 遠藤が一番だろう。
些か不安が残るが……俺の問題を一緒になって考えてくれてるもんな。文句ばっかりじゃいけない。
もう少し、信用しないとな。
「期待してるぞ、遠藤!」
「解決したら、チョコレートパフェね!」
「お易い御用だぜ姉貴!」
「姉御と呼びな!」
「「わーっはっはー!!」」
────閑話休題。
「……んで、結局はどうしたらいいと思う?」
「そうだね……基本的には、甘えたくなるような行動を取ればいいんだけど」
「そんな行動、しても嫉妬を煽るだけだぞ?」
朝は失敗した。
甘えたくなるような行動を取るにしても、相手がいない状態でしないとアウト。
しかし、相手がいない状態でエア頭撫でなどといった行為をしようものなら……ただの頭がおかしい人である。
「んー……それもそうだねー」
腕を組んで可愛らしく悩む遠藤。
それから少しして、遠藤は何か思いついたかのように頭を上げた。
「じゃあさ! 甘えたくなるような言葉を紅葉ちゃんに言ってあげればいいんじゃないかな!?」
「甘えたくなるような言葉……?」
「うんっ!」
可愛らしく、満面の笑みで口にしているが……俺はさっぱり理解ができない。
「言わんとしてることは分かる。アレだろ? 言うだけなら嫉妬はされないし頭がおかしいって思われないってことだろ?」
「頭がおかしいのは元から周知の事実なんだよ」
この子の毒舌にも最近慣れたものである。
……あとで一輝にクレームを言ってやろう。
「まぁ、春斗くんの頭おかしい云々は置いておくんだよ」
「あとで掘り返すがな」
「それより、甘えたくなるような言葉なんだよ!」
ビシッと、遠藤が指を立てる。
「紅葉ちゃんは元から甘えたがる傾向があります……その中でも、一番甘えたくなるような状況は褒めてあげることなんだよ!」
確かに、紅葉は褒めると甘えてくる傾向にはある。
褒めると「頭を撫でてくださいっ!」みたいな小動物的可愛らしさを醸し出しながら要求してくるしな。
「おーけー、ちょっと褒めてくるわ」
「ちゃんと具体的に褒めるんだよ?」
「あい分かった」
俺はそう言って遠藤のグッドラックサインを受け取ると、褒めに行くべく立ち上がる。
すると、ちょうどどこかに出かけるのか、人混みの中から一人で紅葉が教室を出ていく姿が映った。
(これはチャンスだな……)
大勢のいる前で褒めることは難しい。
どうせやるんだったら二人きりの時だ。
俺はせっかくの機会を逃すまいと、紅葉のあとを追う。
そして、廊下に出たあたりで声をかけた。
「もみ────楪」
「どうかしましたか、春斗さん?」
声をかけると、紅葉は不思議そうに首を傾げる。
……まぁ、学校では俺から滅多に話しかけることなんかなかったからな。
とりあえず、あまり人の通る廊下で長話をするわけにもいかない。
褒めるなら、さっさとやった方がいいだろう。
「いや、最近勉強とかよく頑張ってるなって」
「はぁ……?」
紅葉は、更に頭に疑問符を浮かべた。
……仕方ないじゃん。早く終わらせないといけないし、言葉が上手く出てこなかったんだよ。
そりゃ、突然褒めたら首を傾げるよな。
それでも、俺は褒めるのをやめなかった。
「この前のテストも一位だったしすげぇよ。先生の手伝いも率先しているみたいだし、他の生徒にも優しいし、本当にすげぇな、楪って」
一気に出てくる褒め言葉。
いきなり言われたら「何言ってんだ?」って思われそうだけど……紅葉なら、そんなことを言わないと信じてる!
その想いが届いたのか、紅葉は小さく微笑んだ。
「ふふっ、ありがとうございますね、春斗さん」
そして、一歩近づき……止まった。
更に、手を伸ばそうとしていたのか、片手が宙に浮いていた。
……今、紅葉が何かおかしなぐらいにフリーズしている。
笑みを浮かべたまま、お淑やかな雰囲気を纏ったまま。
「……すみません、先を急いでいますので」
すると、フリーズから一変してそのまま廊下を歩いていった。
嬉しそうにしていた割には……最後は何か素っ気なかった。
(俺、やっぱりおかしかっただろうか?)
いきなり褒めれば、おかしいって思われるのは分かるが……何か、いつもの紅葉とは違って見えた。
───そんな時、スマホがまた震えた。
紅葉
『今のはセーフですっ! セーフなんですっ!』
紅葉から来たメッセージが……よく、分からなかった。
「とりあえず、遠藤に失敗したって言いに行くか」
どこか落胆した思いを抱きながら、俺は教室へと戻った。
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