俺と紅葉の友人
「おはようございます」
注目を浴びながら、一定距離を空けて登校していた俺達は教室へと辿り着く。
まず先に紅葉が教室に入り、俺はそろりと関わりがなさそうな感じで教室へと入っていった。
『楪さんおはよー!』
『おはよ、紅葉ちゃん!』
『今日も榊くんと一緒に来たんだね〜』
「えぇ、家が近いものですから」
紅葉が俺から離れると、クラスメイトが一気に囲い始める。
主に女子が多いようだが、数人かの男子もちらりと見える。
これも紅葉の魅力がなせる技。
人望があるという結果を、如実に表しているかのようだった。
そして、俺は数人集まる男子に少し嫉妬しながら、囲いができる場所からそろりと離れ、窓際の席へと移動する。
鞄を横にかけ、ゆっくりと腰を下ろした。
すると────
「ん〜、おはよっ! 春斗くん!」
目の前の空いた席に腰を下ろし、元気のいい挨拶を送ってくる少女。肩口まで切り揃えられた黒髪が、靡いて俺の視界へと入っていく。
「ん、おはようさん」
愛嬌と元気を体現したような女の子。
俺は整った顔立ちを見せ、こちらに笑顔を向けてくる少女────
「相変わらずテンションが低いね〜」
「誰かさんが高いだけだと思うが?」
遠藤はどこか紅葉に似ているような気がする。
今、現在進行形でクラスメイトに囲まれながら聖母のような雰囲気を醸し出している紅葉ではなく、いつも甘えてくるような紅葉と。
少し前まで甘えてくれていたのに、今ではすっかり距離を置いた態度になってしまった。
俺は遠藤と甘えてくる紅葉が重なって……どこか懐かしくも寂しい気持ちを抱いてしまった。
「ど、どうしたの……? 私を見て涙ぐまないでよ」
いけない、ほろりと涙が流れていたようだ。
しかし、あまり自分のことで心配をかけるわけにはいくまい。
だから俺は心配をさせないように、遠藤に向かって口を開いた。
「人は誰だって……不意にセンチメンタルな気持ちになる時が、あるのさっ」
「え、キモイ」
もっと心配させてやればよかった。
「まぁ、どうせ紅葉ちゃんのことでセンチメンタルになっちゃったんだと思うけどさぁ〜。流石に今のはキモかったよ」
「そんなにか?」
結構真面目な顔をして言ったつもりだったんだが……。
まぁ、こいつの感性が腐っているのだろう。
気にすることもない。
「春斗くんが何か失礼なことを考えているんだよ」
「気のせいだ」
悪口なんかこれっぽっちも思っちゃいないさ。
「んで、俺のところに来てなんの用だよ?」
「別に? 春斗くんが紅葉ちゃんと話せなくて寂しい思いをしてるかな〜って思って」
「……ありがとう」
「冗談で言ったのに、本気でお礼を言われたら悲しくなってくるんだよ。罪悪感が凄いんだよ」
だって仕方ないじゃん……本当に寂しいんだからさ。
いきなりあそこに飛び込んだら、皆から変な目で見られるし、付き合ってるって知られたくない紅葉からしてみれば迷惑だろうし。
「んー……こりゃ、相当だね」
「相当なのよ」
「それもそっか。普段があんな感じだもんね〜」
遠藤は、俺と紅葉が付き合っていることを知っている数少ない人間だ。
というのも、紅葉の中学時代からの親友で、「い、1番のお友達には隠し事はしたくないんです……」みたいな感じで暴露した。
当然、紅葉のあの態度と甘え態度を知っている人間でもあったりする。
「春斗くんも可哀想に。紅葉ちゃん、別に付き合ってるって言えばいいのにねぇ〜。私だって、かずくんとはオープンに言ってるのに〜」
「そうなんだよなぁ……まぁ、それでもこの前譲歩はしてくれたぞ?」
「おっ! ついにあの変なところで恥ずかしがり屋さんば紅葉ちゃんが譲歩したんだね!?」
「あぁ……「私が学校でも甘えたいって思ってしまったら学校でも甘えます」って」
「……それ、譲歩?」
譲歩だろう、どう考えても。
しかし、腑に落ちないのか、遠藤は呆れた様子で遠くにいる紅葉を見ていた。
「ま、紅葉ちゃんらしいといえば紅葉ちゃんらしいけど」
「だろ?」
「そこ、別に胸を張るようなことじゃないんだよ。だからそのドヤ顔はやめるんだよ」
だって、誇らしいことだと思ってるんだもん。
「でも、それってすんごく簡単だよね?」
「マジで?」
「うんうん。余裕のよっちゃんだよ!」
もはや世代が完全に違う言葉を久しぶりに聞いた気がする。
「春斗くん、私の頭を撫でてみて〜?」
「うん? どうして頭を撫でる必要が────」
「いいからいいから♪」
理由を話さないまま、遠藤は頭を向けてくる。
釈然としないが……まぁ、いいだろう。
とりあえず、俺は遠藤の頭を撫でることに。
「これで、紅葉ちゃんも甘えたくなったはず!」
すると……ポケットに入れていたスマホが震えた。
紅葉
『浮気……浮気なんですか、春斗?』
「ね? 甘えたくなっちゃったでしょ、紅葉ちゃん!」
「いや、これは恐らく嫉妬だと思う」
いつもやってあげている甘えたくなるような行為をさせたかったのだろうが……単に嫉妬を煽っただけだ。
気のせいか、どこか鋭い視線がクラスの中からいただいているような気がする。
とりあえず────
『誤解だ。遠藤に脅迫させられた』
……っと。
これで嫉妬による怒りの矛先は遠藤に向いただろう。
「むっ? なんなんだよ、その憐れむような視線は! やめてほしいんだよ!」
俺は、遠藤の頭からそっと手を離した。
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