第32ミッション 不穏
別に予約したクルーズ船の一室に官僚と共に入り、リビングに座るK。彼は陰鬱な面持ちで沈黙を貫く。こちらは正体を明かしている以上、彼を協力者に出来なければ、国内でさらに警戒をされて内情を探りにくくなる。なんとしても協力者にしたかった。
「ティムさん、我々は何もあなたを使って御国を操ろうなどとは考えておりません。ただ、知りたいだけです」
彼は怯えながらも視線をこちらに向けた。Kは身を乗り出して彼に訴えかける。
「失礼ながら、あなたの国は国際社会に対してオープンな政策をなさっていない。『何をしているか分からない』というのは、それだけで『恐怖』を招くものだ。
あなたを介して国内の情勢を読みとく、重要なのはそれだけです」
表情の痼は少しだけ解けたが、決心するには至らないだろう。自身や家族の安全保障や情報管理など、他にも説明したい事は山ほどあるが一度に言わない方がいいだろう。
「船の旅を楽しみながらお考え下さい。ああ、明日は娘さんの誕生日でしたね。私からも贈り物を用意してありますよ」
『脅し』を加えつつ、Kは官僚を部屋から出した。ここは閉鎖空間だし、『盗聴機』や『追跡アプリ』は仕掛けてある。誰かに連絡を取ればすぐに看破できる。
次の日、屋久島に到着し乗船客は島内を観光する。歴史ある自然を楽しむ者や野性動物を観察する者。美しい海岸で日光浴やシュノーケリングをしたりと、各々の目的地へ向かう。Kと里桜も青深い自然を散策していたが、時々KがJへの連絡のために里桜から離れる事があった。交渉の感触や進捗を報告するのは必須事項なのだが、そのせいで里桜とのデートはおざなりになりつつあった。
そんな様子をハイエナのような男が見ていた事に、Kは気付いていなかった。
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