エージェントと里桜
第26ミッション 不運
「あ~もう!最悪だわぁ!」
隣に座っていたふくよかな女性が不満の声と共に受話器を下ろす。その苛立ち様から何かしらの問題が起こった事を察する。
「どうかしましたか?七瀬さん」
「クレームよ!クレーム!デザインが差し変わっていなかったらしいわ!もう、営業に確認しなきゃ!」
七瀬は口を尖らせながら営業に電話を繋ぐ。顧客からの直接的な苦情を『自分が』受けなかったのは久しぶりだ。そういうトラブルは決まって自分が引き寄せていたから。隣で腹を立てている七瀬をよそに仕事へ戻る。
いつから、私は『不幸』に慣れしまったんだろう……?
『はい!じゃ~あ~、当番はりおんちゃんね~』
『あいつ絶対!外れ引くよな!』
『くじ引きやんなくても、最初から雲内に決まってるじゃん!』
くじ引きでもあみだでも何故か『外れ』を引くのは私だった。嫌な当番も面倒な役目も全て私に回ってきた。
コンビニで買い物をしていたら、隣の人の万引きを何故か私のせいにされた。
全員に配られるはずのプレゼントも私の分だけない。
友達の別れ話に巻き込まれて、男の子の方にきつく怒鳴られてしまう。
受験日に電車が遅延して、滑り止めの学校に行くことになった。
他にも転んで水溜まりに突っ込む。野良猫に引っ掛かれる。自転車に衝突される。財布がなくなる。
間が悪く、引きが悪く、運が悪い。大なり小なり、嫌なことばかり起こる。
私の側にいると『良くない』事が起こるからと言われ、その内誰もいなくなっていった。
その『不幸体質』をはっきり自覚したのは、母が亡くなった時だ。不運な転落事故らしかった。階段で足を滑らせての転倒で、誰も何も悪くなかった。
これは、そういう『運命』なのだ。
だから、私の『運命』もきっとそうなるんだ。
『幸福』な事なんて起きない。『不幸』の連続。そう割り切って生きていくしかないんだ。
嫌な事があってもくよくよしない。すぐに切り換える。考えないようにする。
『不運』は当たり前だって思うことにした。
『大丈夫。君にどんな不運が降りかかろうと、俺が回避してみせるから……』
どうして彼は、あの時そう言ったのだろう。
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