第21ミッション オスのマウント

〈ご主人がオスを連れてきた。

この家にご主人以外の人間が入るのは初めてだ。いつもの押し売りかと思って噛み付いたら、ご主人に怒られた。

どうやら客人のようだが、なんか……やな感じだな、このオス!〉


 マカロンはKが普通じゃないと感じ取っていた。ドラマを鑑賞中もずっとKを睨む。


〈ご主人にゲージの中に入れられたが、あのオスがご主人にすり寄ってきた。襲う気だ!俺様は鳴いてご主人に危機を訴える〉


 マカロンは吠えて里桜の注意を自分に向けさせる。ゲージから出てもKに威嚇した。


〈大体ご主人は運がなさすぎるんだ!

俺様がこの家に来てからは2回も空き巣に入られるし(俺様が追い払ったがな)、しつこい勧誘は断れないし(俺様が足に噛み付いてやった)。

このオスもよくねぇ感じがする。危険な奴だ!だからさっさと追い返さねぇと……!〉


 マカロンは里桜の手から抜け出しKの腕に噛み付こうとした。だが、駆け出した瞬間、全身に『恐怖』が駆け巡る。


 Kと眼があった。

 こちらを睨み付ける視線は鋭く、殺気立っている。強者のオーラに動物としての危険信号が警鐘を鳴らす。


〈こいつには挑んじゃいけないっ!俺様より上っ!敵わないっっ!〉


 ピンと立っていた尾が下り足の間へしまわれる。萎縮してしまったマカロンを見て、里桜が首を傾げた。


「マカロン、どうしたの……?」


 威圧してしまって悪いなマカロン。だが、これ以上里桜との甘い時間を奪われたくないんだ。大人しくしててくれ。

 Kは戦意を失い萎れてしまったチワワを撫でる。


「知らない人間が来たから苛立っていたんだろう。けど、君のご主人とは仲良しなんだ。威嚇しないでくれると嬉しいな、マカロン……」


〈ぐぬぬぬっ……〉


 念を押すように威圧するK。オスのマウント勝負は静かに幕を閉じた。その後は、マカロンに邪魔される事なくドラマの鑑賞を続けた。全体的には良かったが、主人公の末路が悲惨だった。実際の諜報員はあんなひどい扱いは受けないぞ。



 ドラマのフルマラソンを終えて、夕方の5時に帰宅した。里桜が夕食を提案してきたが、これから飛行機に乗ってイタリアに行かなければならないから断った。

 できれば彼女の手料理が食べたかった。非常に残念だ。玄関で靴をはいて見送る里桜を振り返る。Kは隙を見て里桜にキスをした。そっと唇に触れて優しい笑顔を見せる。


「では、またな……」


 爽やかに去っていくリチャードに、里桜はしばらく惚けていたが、数秒後には膝から崩れてしまう。


〈どうした、ご主人!あいつに何かされたのか!〉


 心配して膝に乗ってきたマカロンを里桜は抱きしめる。


「どうしよう……こんなにドキドキしていいのかな……。好きになってもいいのかな……」


 顔を真っ赤にして照れる里桜。最初は押し切られる形で付き合い始めて、相手の素性も分からないから警戒していた。けれど、会う度に誠実で優しい彼に惹かれていっている。

 リチャードともっと一緒にいたい。

 また会いたいと思っている。


〈なんだよ……あの男に惚れてんのかよ……俺様が出る幕じゃねーな。静かに見守るぜ〉


 自分より格上のオスであるKを認めざるを得なくなったマカロン。里桜の飼い犬としてはご主人の幸せを願ってやろうと思った。






……………………………………………………

犬にマウント取ってドヤっているKがアフォみたいですね。そして、マカロンが男前です。



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