　待ち合わせ近くのホテルにチェックインし、熱いシャワーを浴びるK。フライト中は寝ていたが、時差のせいで体内時間がめちゃくちゃだった。40℃のお湯で眠気を飛ばして、１時間後には里桜と海水浴場へ向かう。

　ノズルを捻って水流を止める。バスタオルで体を拭きながら、Kは鏡の前に立って自分の体を眺める。里桜から海に行こうと誘われて、即座に了承してしまったが、一つだけ問題があった。

　Kの左胸には銃傷があるのだ。

　１０代の頃に受けた傷で、あと数センチずれていれば、心臓に当たって即死だった。相手の出方を見誤り、銃撃の末に被弾した。一命をとり留めたが、この件以降、彼は常に『最悪』の事態を予想するようになった。

　二手三手先を読んで、どんな状況なっても『死（さいあく）』を回避できるように『先読み』を身に付けた。この傷痕は戒めであると同時に教訓だった。

　だが、今はその傷痕に悩まされている。海ということは自分も水着を着なければならない。こんな肌をさらけ出したら、彼女は驚いてしまうだろう。

　けれど、海に行きたい！

　里桜の水着姿が見たい！

　波打ち際でいちゃつきたい！

　不安よりも欲望が勝った。絶対に上着を脱がない方向で、最大限海を満喫するとしよう。

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。（ログインが必要です）

新規登録で充実の読書を

マイページ: 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる; 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める; フォローしたユーザーの活動を追える
通知: 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴: 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい