花火
さとすみれ
1話完結
地区の花火大会が一週間後に迫ったある日、僕は詩織ちゃんを屋上に呼んでいた。今日僕はここで詩織ちゃんに告白して、付き合って、花火大会へ一緒に行こうと誘うんだ。待ち合わせ時間まであと二分ぐらい……。僕の心のドキドキはどんどん大きくなっていく。周りに誰かいたら聞こえてしまうのではと思うぐらい。落ち着きたくて左の手のひらに「人」を書く。人人人、ぱくっ。ドキドキ……。ヤバい、まだ緊張してる……。ふー。
がちゃ。
もうすぐ来ることは知っていたのに、僕はドアの開閉音にびっくりしてしまった。
「大輝くん、急に私を呼んでどうしたの」
詩織ちゃんは僕に声をかける。僕は覚悟を決めて言った。
「僕、詩織ちゃんのことが好きなんです。僕と付き合ってください」
言っちゃった……。今、僕の顔は真っ赤だろう。詩織ちゃんに見られたくなくて頭を掻きながら横を見た。詩織ちゃんは何も言わない。あー。どっちなんだ。付き合えるのかな。振られるのかな。僕の胸はさっきよりもドキドキし始める。お願い。付き合えますように――
「ふふっ。大輝くん顔真っ赤。ごめんね。私大輝くんとは付き合えない。私今付き合ってる人いるんだよね。告白してくれてありがとう」
目の前が一瞬で暗くなった。詩織ちゃんに振られた……。なんなら恋人もいる……。僕は停止している脳を頑張って動かし、詩織ちゃんの言った言葉を理解しようとした。しかし、僕には信じられなかった。失恋ってこんな気持ちなんだな、と僕はこの状態で思った。
「そっか。恋人いるんだね。今日は来てくれてありがとう」
僕は詩織ちゃんの方は見ずに言った。自分の目から涙が溢れ始めているのを見られたくなかった。詩織ちゃんは何も言わずにドアを開けて帰った。そのあと、小さい声でだが、
「告白されたけど振ってきた。だって陽太くんが一番だもん」
と聞こえた。ドアを挟んで外にいたんだ。そう思ったら僕の止めていた涙は溢れた。
♦︎♦︎♦︎
大輝が俺にちょっと言ってくると言ってから、十分が経った。告白して振られたかなと思いつつ屋上へ歩く。確かアイツは告白するなら屋上とか言ってたしな。途中で同じ学年の陽太と詩織ちゃんに会った。手を繋いでいる。ここ付き合ってたんだ。まさかアイツ詩織ちゃんに告白したのか。俺は階段を一段飛ばしして走った。
外と中を遮るドアにある小さな窓から屋上を覗いてみる。大輝は座っていた。目が赤い。僕は迷わずドアを開けた。大輝がこっちを向いて驚いている。俺は告白とかを一切知らない感じを出して言った。
「お前、何でそんなに泣いてるんだよ。お前に涙は合わないぞー」
目の前で泣いているコイツは俺に笑顔を見せて言った。
「泣いてねーし。なんでお前ここに来たんだよ」
「いやお前が帰ってこねーからだよ。さっさと帰ろうぜ」
俺は大輝の腕を掴み、立たせた。そして大輝を前にして屋上を後にした。屋上を見てみると、さっきまで大輝が座っていたところは色が変わっていた。
♦︎♦︎♦︎
「なあ、花火大会行かない」
元に戻った大輝と一緒に帰っている時、俺は言った。アイツは多分詩織ちゃんを誘おうと思ってたんだろうな。だったら俺と行こうぜと思った上での発言だった。大輝は驚きながらも言った。
「いいぜ。久しぶりだな。何年ぶり」
「うーん。二年とかかな」
「うわーそんなに経つんだ。楽しみだな」
これがアイツにどんなことを思わせるかは分からない。だけど、大輝を笑顔にしたかった、楽しもうと思った。
♦︎♦︎♦︎
花火大会はたくさんの人で溢れていた。もちろん、陽太・詩織ちゃんカップルもいた。しかし、大輝に見せないように、俺だけが眼中に入るように、俺はいつもの二倍以上のテンションで彼と接した。
「お前今日テンション高すぎ」
「いやだって楽しいじゃん」
変に思われたものの大輝は笑ってくれているからいいや。
「そろそろ花火の時間だな」
「あそこ行くか」
「覚えてるかなぁ」
「いけるっしょ」
小学生の時に見つけた誰も来れない僕らだけの秘密の場所。そこから見る花火はすごい綺麗なのだ。
着いた頃には色鮮やかな花火が空に上がっていた。
「もう始まってたか」
「だって迷ったもん。始まってるわ」
僕たちはしばらく無言で花火を見ていた。花火の美しさに目を奪われていた。花火がそろそろ終わるかなという時、突然大輝が口を開いた。
「僕さ、詩織ちゃんに告白したんだよね。振られたけどさ」
急に言うから何かと思った。まさかここで俺に報告するとは……。大輝らしいっちゃらしいけど。俺は言われた時に返してあげようと思っていた言葉を言った。
「嘘だろ。マジか。知らなかったわ。えー大輝、詩織ちゃんのこと好きだったんだな」
「……うん。好き」
「お前まさか詩織ちゃんと付き合えたら花火大会行くつもりだったのか」
「そうだよ。まあ、もう関係ないけど」
「もしお前にまた好きな人ができて、振られたら一緒に花火大会行こうぜ」
「ああ、そうだな」
大輝の目にはまた涙が浮かんでいた。俺はそれに気づかないふりをして言った。
「だって俺ら友達だろ」
大輝は花火を見たまま何を思ったのか分からないが言った。
「ありがとう」
花火 さとすみれ @Sato_Sumire
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