転生守銭奴女と卑屈貴族男の(義)叔母事情 05
病状の悪化による面会謝絶。
表向きはそういうことになったようだが、実のところ、単純に、お姉さまが、もはや人と会うことができるような精神でなくなってしまっただけ。それでも、気がふれたと周囲に知られれば外聞が悪いので、本当のことを知るのは、おそらく、カノルーヴァ家の人間と私だけ。
お姉さまの義両親は、これを機に、私たちの実家へとお姉さまを送り返したいようだったけれど、それは叶わずにいた。義兄が生前、既に手をまわしていたらしい。
生きている間に味方の一つも作れなかったくせに、こんなことだけはしているだなんて。
こうして、お姉さまが部屋に閉じ込められているのと、実家に送り返されてしまうのと、どちらが幸せなのか、私には分からなかった。きっと、お姉さまもそうだろう。
彼女の望むものは、もはや何一つ手に入らないのだから。
面会謝絶だ、とは言われていたけれど、私は再びカノルーヴァ家に足を運んでいた。
お姉さまへの見舞いの品を届ける、という名目だったけれど、姪たちの様子も心配だったのだ。
お姉さまの乱心は、屋敷中に広まっている。きっと、彼女たちの耳にも、届いたことだろう。それがどれだけ正確な内容なのかは、私の知るところではないけれど。
「叔母様!」
わたしが訪れたと知るなり、姪たちは、わっと私に駆け寄ってきた。不安だったのか、目に涙を浮かべている。
ずっと気を張って、素直に泣けなかったのかもしれない。父を亡くし、母もあのようなことになり。祖母は跡取りでない、そのうち嫁に出てしまう女孫たちを可愛がってはいないし、祖父は再びカノルーヴァ家当主の席に戻ることとなり忙しい。
彼女たちには、甘えられる人物がいなくなってしまったのだ。
令嬢たるもの、心を強く持たねばならない。
それでも、まだ、この子たちは、甘えられる場所が必要な年頃だというのに。
「――……」
姪たちを抱きしめ、慰める傍らで、私はあたりを見回す。
案の定、というべきか……あの子は――ディルミックは、この場にはいなかった。
義兄が鬼籍に入り、先代が再度当主となることになった際、ディルミックのための別館が作られたはず。もしかしたら、そちらにいるのかも。
姉たちに紛れて、母の乱心を悲しむこともできない、可哀想な子。
実の母であるお姉さまに、殺さねばならないと言われたあの子も、きっと、つらかっただろうに。
私の頭の中では、あの日、街にいた醜い男に石を投げ喜んでいた街の人たちの笑い声が、響いているような気がした。
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