転生守銭奴女と卑屈貴族男のお忍び旅行事情 09
考えてみれば、ディルミックとこうして二人で出かけるのも滅多にないことだ。いや、護衛の人たちがいるから、正確には二人きり、というわけではないんだけれど。
普段、ディルミックに、何か品物について尋ねるときは、大抵、新しい家具が欲しい、茶葉が切れたので次を買いたい、とか、そういうものばかりだ。
普段から業務連絡ばかりじゃなくて、普通に雑談はするんだけど……こういう、ウィンドウショッピングみたいな、欲しくないものだけど目に入った商品に対して感想を言い合う、ということはしてこなかったかもしれない。家で何か新しいものに関して話し合うときは、それをすでに買うことが前提だった。
だから、もしかしたら、ディルミックからしたら、わたしが欲しがってねだっているように感じるのかも。
「ディルミック、別に、買いたいもの、欲しいものでなくても、売られている商品に対して感想を言うことはあるものなんですよ? 大体、もし何か買うとしても、全体を見て、商品を吟味してから購入しないとお金がもったいないじゃないですか」
もしかしたら別の店でもっと欲しいものが出てくるかもしれないし、似たようなものが安く売られているかもしれない。
何か買うのであれば、全部見てから考えるべき。
そう思って言うと、なぜかディルミックが少し吹き出し、笑った。……別に、変なこと、言ってないよね?
「――……懐かしいな」
「懐かしい?」
言われる意味が分からなくて、わたしは思わず、そのまま聞き返してしまった。
「ああ。僕のところに来たときの君を思い出す。あの頃は、本当に金の話ばかりだったからな」
「別に、今でも――」
「いいや、最近の君は、子供の話ばかりしているな。後はまあ、いつも通り、茶の話か」
……無自覚だった。いつから、お金のことを気にする頻度が減ったのだろうか。
ディルミックとの雑談も、子供たちとの会話も、何か意識して話題を持ってくることがあまりなかったので、全然気が付かなかった。でも、ディルミックがこうしてわざわざ言うということは、本当に久々なんだろう。
「そ、そうでしたか……」
なんだか、自分でも気が付かないうちに、がっつり価値観を変えられてしまっていたようで、気恥ずかしくなる。
今でも、お金は不変的に価値のある、分かりやすい絶対的な指針ではあるとは思っているけど。思っているけど!
でも、わざわざ、言い訳のように頭の中にそう浮かんでくるということは、すっかりわたしの中で、『この世で一番大切なもの』が変わってしまった、ということだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます