転生守銭奴女と卑屈貴族男のお忍び旅行事情 08
メイナルのメインストリートにたどり着くと、そこはもう、本当に異世界みたいだった。マルルセーヌとも、いつも行くカノルヴァーレとも全然違う。もちろん、元の世界とだって。
本当に同じ国、それどころか、同じ領内なのかと問いたくなるほど、メイナルの街並みは全然違って見えた。同じ領内の街、カノルヴァーレのメインストリ―トに並ぶ屋台とも全然違う。カノルヴァーレが最も栄えた街、と教わったのに、メインストリ―トの賑わいだけ見れば、こちらのほうが全然人が多いように見える。都会度で言えば、カノルヴァーレの方が上なんだろうけど。
まるで絵に描いたような、異国情緒あふれる屋台通りに、わたしは逐一足を止めてしまっていた。ここまでくれば、もはや、はしゃいでいることを悟られないように装う方のが子供だろう。
「すご……っ、綺麗な刺繍。……手が込んでて高そう」
わたしは近くにあった布地を見る。布の端に刺繍が施され、光の加減できらきらと色を変えている。特別な糸を使っているのだろうか。見たことがない。
「欲しいのか?」
「ううん……普段使いには厳しそうですし、いらないです」
ドレスとかに使ったら映えそうではあるけれど、この布地がドレスに適しているのか分からないし。結局、この年になっても、ドレスのデザインや生地の良し悪しは覚えられず、未だにドレスを新調するときは一人で決められない。
布だけ買って使い道がないんじゃ、お金の無駄だし。
「あっ、あっちのアクセサリー、綺麗ですよ! 見てください!」
「……買うか?」
「そこまでは。あ、デザインは素敵だと思いますよ?」
でも別に、普段からアクセサリーを使うような生活をしてないし。特別な日に着けるものは……ドレス同様、義叔母様のアドバイスが欲しい。買っても使わないならお金を捨てるようなものだ。
「ディルミック、あれも見てください! すご、すごい!」
どうやって持ち運ぶんだ、と問いたくなるような、重量感たっぷりの大きな木彫りの像を見つけて声を上げる。こんなの、普通の街中じゃ売られてないよ。パッと見分かりにくいけど……多分、熊! デザインは前世の世界とはちょっと違うけど、それでも異世界にも、木彫りの熊って売ってるんだ!
わたしは興奮して、思わずディルミックの服の袖を引っ張ってしまった。
「いるか?」
「いらないです。アレどうやって持って帰るんですか。それに、置き場所ないですし……」
――それからというもの、目につく珍しいものすべてをディルミックに報告すると、彼はなぜか必ず、「買うか?」とか、「欲しいのか?」とか返してくる。
うーん、そんなに物欲しそうに見えるのだろうか?
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