転生守銭奴女と卑屈貴族男のお忍び旅行事情 07

 フードと眼鏡、それから包帯。ちょっぴり怪しい姿だけれど、何でも似合うディルミックの顔を見て、思わず、格好よ……とつぶやきそうになって、慌てて口をふさいだ。ガーゼで顔周りを隠すのかな、と思っていたが、包帯を選んだようで、妙にすっきりとしている。

 顔に怪我を負った人、という設定らしい。確かに、それなら少し不自然にフードを深くしていても、そこまで不審に思われないだろう。


「すまないな、この格好で」


「いえ、全然……」


 出会ってから結構な年が過ぎている。それなのに、全く年を取っていないように見えるのは、ディルミックが本当に老けていないのか、わたしがそういう風に見てしまっているのか。……おかしいな、結婚したら恋愛感情みたいなものって減っていくものじゃないの?


 昔ほど、一挙一動に反応してしまう、なんてことは流石になくなったが、かといって、ディルミックの言動すべてに心が動かされなくなったわけではない。

 一番身近な夫婦が二組そろってお金絡みで終わっているので参考にはならないけれど、それにしたって、世間一般的には恋愛感情って賞味期限が三年とか言われているはず……。いや、そりゃあ、仲が悪くなるよりも、仲良しな方がいいに決まっているんだけども。


「ロディナ?」


「な、何でもないです」


 今更、ちょっとドキドキした、なんていえなくて、わたしはごまかした。ディルミックはわたしに深く言及してくることもなく、今日案内してくれる場所を軽く説明してくれた。


「市場のある海側は、今はもう軒並み終わっているだろうから、輸入品の並ぶ街側に行こうと思う」


「分かりました」


 確かに、海鮮が市場に並ぶのって朝一番だもんね。いくらまだ日が暮れるには早いとはいえ、お昼時はすっかり終わってしまったのだ。売り場があるわけがない。

 海側の市場は、ディルミックの仕事が終わるまでお預けかあ。ま、こればかりはしょうがない。今日の夕ご飯は海鮮料理らしいから、それを楽しみにするとしよう。


「今の時間帯は少し混んでいるからな……。ハンベル以外にも一人共を増やすか」


 そう言って呼ばれたのは、タガレアだ。タガレアは、娘が生まれてから、女の護衛もいた方がいいのでは? というディルミックの考えの元、雇われた女性の護衛の一人。

 わたしは屋敷の外に出ることがほとんどないから、わたしが屋敷にいる間は女性の護衛を雇おう、ということにはならなかったようだ。まあ、屋敷の中にいればミルリをはじめとしたメイドがそばにいるだけでいいし、外に出るとしても、ディルミックと一緒か、茶葉を買いに行くだけなので、男性の護衛でもどうにかなったのだ。別に、ディルミックがわたしのことを考えなかったわけではなく、単純に、わたしが出不精なだけなのである。


 タガレアを加え、四人でわたしたちは街へと向かうのだった。

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