転生守銭奴女と卑屈貴族男の料理事情 03
――一週間後。
ディルミックは約束通り、料理を作ってくれることになった。
久々に自室のキッチンを使う、と言いながら、料理するディルミックの後ろ姿をわたしはソファに座って眺める。ちなみに、室内に匂いがこもらないのか、と疑問に思ったけれど、異世界の換気扇は優秀らしい。ほんのりといい匂いがしてくるばかりで、室内に匂いがこもることはない。
「……見ていて楽しいのか? 出来上がったら呼ぶが」
「ディルミックだってわたしがお茶を淹れるの見てるじゃないですか」
わたしがそう言うと、ディルミックはあまり納得いっていないような表情でありながらも、料理を作る作業に戻った。
……人がこうして料理を作る後ろ姿を見るのは、いつぶりだろう。
前世も、今世も、母親が料理を作る、という後ろ姿の記憶はない。幼少期は作ってはいただろうけれど、小さすぎて記憶がないのだと思う。もしくは、小さいからとキッチンに入れてもらえなかったか。
今世の父は前世の父より病んでいて、家事なんてろくにできなかったし、祖母が早くに亡くなって、祖父と暮らしていた頃、最初のうちは外食に頼って、そのうちわたしが料理を作るようになった。
そう考えると――前世の父にまで遡らないといけないかもしれない。
誰かが自分のために料理をしている後姿を見る、という当たり前の幸せを、わたしは久々に享受していた。
ディルミックがいつも、どういう感情でわたしがお茶を入れる姿を眺めているのか知らないけど――うん、これはやめられそうにないな。
後、単純に、意外とディルミック、エプロン似合うな……。イケメンは何を着ても様になる。
作るのが久々、と言いながら、手際がいいディルミックはあっという間に料理を作り終えてしまった。……もうちょっと見てたかったかも。
「本当にたいしたものは作れないが……」
そう言って出してくれたのは、スープとサンドイッチ。シンプルな料理は大好きだ。……ただ、毎食こういう料理を食べていたのかと思うと、ディルミックの食生活が心配なのだが……。
まあ、しっかり身長は伸びたみたいだし、今はプロに食事管理されてるから大丈夫か。
「わあい、ありがとうございます」
わたしはぱくり、とサンドイッチにかぶりつく。
「……おいしい!」
わたしは思わず声をこぼした。
サンドイッチなんて、具をパンではさむだけなのだから、誰が作っても同じ、と思ったけれど、全然そんなことはなかった。挟むときにパンに何か塗るのとか、性格出るよね。ディルミックはバターを塗る派らしい。わたしは面倒だからやらない。
スープも、温かくて優しい味だ。野菜に火が通ってくたっとしているのも好き。
「んふふ、すごく美味しいです!」
「……ベルトーニの料理の方が美味いだろう」
わたしがあんまりにもはしゃぐからか、ディルミックが少し目線をそらしながら言った。照れているらしい。
ベルトーニの料理はすごく美味しいけど、プロの味なのだ。こういう、手料理、って感じの料理は、すごく久しぶりに食べる。自分で自炊するのとは、また違う。
――……そもそも、食べる機会自体がすくなかったから、他人の家庭料理というものに飢えている、というのもあるかもしれないけど。
「……そんなに喜ぶのなら、また、時間が取れるときに作ってやる」
「本当ですか!?」
てっきり、今回ばかりだと思っていたから、すごく嬉しい。また食べれるのか。食べても、いいのか。
「じゃ、じゃあ、そのときは、わたしが何か、食事にあうお茶を淹れますね!」
「――……そう、だな。そのときは頼もう」
約束をして、ディルミックもスープとサンドイッチに手をつけた。
お貴族様の料理人による食事も美味しいけれど、こういう、手料理を一緒に食べるのも素敵だと思う。
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是非よろしくおねがいします。
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