転生守銭奴女と卑屈貴族男の料理事情 02

 でも、食べてみたい、って言ったところで、嫌なことを思い出させるだけだろうか? こんな風に本館から追いやられて、自分で食事の準備をしなきゃいけなくて、当然、一人でご飯を済ませなきゃいけなくて。どう考えても、いい思い出なわけがない。

 どうしても食べたいわけじゃないし、ただの好奇心で、ちょっと気になるだけだし。

 変なこと、言わない方がいいかな、と思ったのだが。


「気になるのか? 僕が作る料理」


 思い切り顔に出てしまったのか、そんな風にディルミックが聞いてきた。


「えっ? え、あー……ま、まあ、少しは」


 ディルミックがわざわざ尋ねてくるくらいなのだ。そんなことはない、と言ったところで、嘘だというのが丸わかりだろう。わたしは素直に気になっていたということを伝えた。


「ベルトーニの料理の方が美味いと思うが……気になるなら、一度、作ろうか」


「えっ! いいんですか!」


 思っていたより大きな声を出してしまって、慌てて口を閉じる。こんな反応を見せてしまったら、少し気になっている、という言葉自体が嘘に感じてしまうだろう。


「今週は忙しいから無理だが――そうだな、来週ならば時間が作れる」


「いつでもいいですよ!」


 なにせわたしは基本的に暇人である。勉強とか、義叔母様のレッスンとか、予定があるにはあるが、ディルミックより全然時間の都合がつけやすい。


「それにしても……僕なんかの料理が食べたいなんて、変わっているな」


「そうですか? 料理人でもないのに、男の人で料理ができる人って、珍しいじゃないですか」


 今までわたしの周りには、料理のできる男性はいなかった。料理をする男はプロで、家庭料理は女性のもの、みたいな空気感があったのだ。わたしの生まれ育った場所が、村で田舎だったというのも大きいかもしれない。


 ただでさえ、女性はすぐ結婚して家庭に入り、仕事を続けないのが当たり前の国なのだ。女性でも就ける仕事が少ない田舎では、ことさら、女性は家に入って家事育児、という意識が強いのだろう。前世の価値観からしたら時代遅れ、と言われてしまうかもしれないが、国どころか世界まで違うのだから文句を言ったってしょうがない。


「……そもそも、貴族で料理ができる人間自体、少ないがな」


「そうなんですか?」


 まあ、料理人を雇うのが一般的か。マルルセーヌだと、お茶から派生して製菓とか、お茶を使った料理にまで手を出す貴族も珍しくない、と聞くけれど……まあ、実際にマルルセーヌの貴族に会ったことはないから実情がどうなっているのかは知らない。あくまで平民の間の噂というやつだ。

 ともあれ、今度、ディルミックが料理をしてくれることになった。楽しみだなあ。

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