転生守銭奴女と卑屈貴族男の本館事情 27
お義母様からの手紙は、それはもう、すごく読みやすかった。字に癖が少しあるものの、まるで教科書のような書き方なのである。意訳する必要もなければ、略されて書かれていることもない。
ちらほらと、分からない単語もあったけれど、分かりやすい文体のおかげで、手紙で伝えたかったことはだいたい分かったと思う。
結構長い手紙だったけれど、要約すると、先日の態度を謝罪するものだった。
そして、同時に、わたしの存在を認めたい気持ちと、認めたくない気持ちがある、とも書かれている。『矛盾』という花言葉の花で花束を送ってきたのは、そういう意味だったのか……。
仮に、わたしの、ディルミックを愛している、という言葉が事実じゃなかったとしても、そんな言葉を嘘でも言ってくれるような人間がディルミックの傍にいる未来が想像できなかったから、わたしという存在がディルミックの隣にいてくれて嬉しいという気持ちと。
ここで、ディルミックが誰かに愛されることができる存在だったと認めてしまったら、散々自分が耐えてきたことが無駄になってしまうのでは、という気持ち。
親としては、わたしの存在を認めた方がいいと分かっていても、素直に受け入れられない。
そんなことが、赤裸々につづられていた。
きっと、お義母様を責めたという人が生きていれば、わたしという存在がいることで、見返すこともできただろう。でも、義叔母様によれば、皆鬼籍に入っているという。
これは、推測でしかないけど――今更、とか、もっと早くいてくれれば、とか、そういうもやもやが、今、お義母様を支配しているのだろう。
「――……こればっかりは、時間が解決してくれるのを待つしかないよなあ」
この感情を、わたしはどうにかする術はない。わたしが何かして、お義母様の気持ちが晴れるというのなら、可能な限り頑張るけど、正直、今のお義母様にそれは逆効果な気がする。
「……とりあえず、返事くらいは書いても大丈夫だよね」
わたしは便箋を取り出す。普段ディルミックに送っているときに使うものばかりなので、貴婦人に送っていいデザインなのか分からないけど……。義叔母様に手紙の書き方を教わったときに、デザインについてはとくに言われなかったから大丈夫だよね、多分。
「わたしも、何か花を一緒に送ろうかなあ」
折角図鑑があることだし。探すのは、大変かもしれないけど。お義母様に合わせるのなら、送った方がいいだろう。
わたしは、文面を考えながら、筆を取る。
話を聞いてもらってここにいることを認めてもらって助かったこと、そうやって、考えていることをつまびらかにして教えてくれて嬉しかったこと、そして――もし、いつか和解することができる日が来たら、そのときは、一緒に温室で花を見よう、ということを、手紙に書くために。
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