転生守銭奴女と卑屈貴族男の本館事情 26
なんとなく、見たことがあるような、ないような。多分、義叔母様に一度教わったっきりで、日常生活ではあまり使わない単語なんだろう。そういう奴は、大抵忘れてしまう。書いて覚えようとはするんだけど、使わないとどうしてもド忘れしてしまうのだ。勉強用のノートを探せばどこかに書かれているかもしれないが、ディルミックに聞いてしまおう。
あんまり長い時間話し込むのは良くないが、勉強でつまずいたとき、一言、二言で終わるような内容だったら、ディルミックは特に気にした様子もなく教えてくれる。仕事中の人間に何度も話しかけるのはどうかと思うので、そう頻繁に何度も聞きに行くことはないけれど。
わたしは、勉強用のノートの端に、間違いないように言葉を写す。ついでに、色も間違っていないか、確認してもらおう。
今の時間なら、部屋にいるだろう。
廊下に出て、ディルミックの部屋の扉をノックすると、少し遅れてディルミックが出てきた。
「何かあったか?」
「すみません、たいした事じゃないんですけど、どうしても知りたい単語があって」
わたしは勉強用のノートの端に書いた先ほどの単語を見せる。
「ああ、これは、『矛盾』や『食い違い』といった意味の単語だな。こっちは『オレンジ色』だ」
「むじゅん……」
そりゃあ忘れるわけだ。言葉にするならまだしも、絵本か児童用の小説くらいしか読まず、書くのもディルミックへの手紙くらいなのだから、『矛盾』なんて使うわけがない。
――それにしても、矛盾、かあ。
色はやっぱりオレンジで間違いないみたいだし、お義母様が送ってきた花束の花言葉は『矛盾』ということでいいんだろう。
……何と何が矛盾してるんだろ。というか、矛盾、なんて花言葉あるんだ。愛とか、なんだかポエムチックな言葉とか、そういうものばかりが花言葉だと思っていた。
『矛盾』という花言葉を不思議に思いながらも、わたしはディルミックに礼を言って部屋に戻る。
部屋に戻って、はたと手紙に気が付いた。そうだ、むしろこっちがメインじゃないか。
これを読めば、花言葉が『矛盾』だった意味が分かるかも。
そう思いながら、わたしは手紙を取って――分からない単語がまた出てきたらどうしよう、と、まとめてディルミックに聞くべきだったと後悔した。
また聞きに行くのは悪いし……。
どんなことが書かれているのか、というかそもそも手紙を読み取ることができるのか、わたしはドキドキしながら、蝋封のされた封筒を開けた。
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