転生守銭奴女と卑屈貴族男の本館事情 25
花束と手紙はお義母様から。
図鑑は、お義母様つきのメイドかららしい。
二人はわたしにそれらを渡すと、まだ仕事があるのか、それとも気まずいからなのかは分からないが、ばたばたと慌ただしく去っていった。
「……図鑑」
結構厚みのあるそれは、年季の入った植物図鑑だった。以前、ディルミックが本館から持ってきたというグラベイン語のテキストも結構古びていたし、この図鑑も本館の書庫のものなのかもしれない。流石にお義母様の私物ということはないだろう。メイドが差し出してくるくらいだし。
それにしても……植物図鑑、ってことは、この送られてきた花になにか意味があるのだろうか。
花束は後でノルテに花瓶へ生けて貰うとして……。この図鑑の中から、花束の花を探せばいいのかな。
わたしは自分の部屋に戻り、椅子へ座ってから図鑑を広げる。花の図鑑は、写真ではなく絵で説明されているものだったが、かなり写実的な絵で、写真と遜色ないので、探すのにそこまで苦労はしなさそうだ。
問題は解説の方。それなりに細かい字で書かれているので、なかなか解読に時間がかかりそう。知っている単語を拾うことができているから、全く読めないわけじゃないけれど。
「えーっと……あ、これ、かな」
数分、ぱらぱらと図鑑をめくっていると、それらしき花を見つける。
図鑑には、分布図や花が咲く季節など、いろいろ書かれているようだけど……。
「花に意味を込めて送ってくる、っていうなら、多分、花言葉だよね」
花が好き、って言っていたし、花言葉を分かっていて、この花を選んで送ってきた可能性が高そうだ。
「花言葉、花言葉……あ、これ?」
わたしは図鑑の中から、『花言葉』に当たりそうな文字を、ページを指でなぞりながら探していく。そして、ページの最後の方に『花言葉』と書かれているであろう部分を見つけた。
「……この花、色によって花言葉変わるっぽいな……。オレンジ色って、グラベイン語だとなんていうんだ?」
赤や青、黄など、基本的な色は分かるけれど、オレンジ色は分からない。仕方がないので、わたしは消去法で色を絞っていく。
「これは赤、これは黄で……えーっと、これが白、だったよね……」
ぶつぶつとわたしは口に出しながら花言葉を調べていく。
この花は、そこまで色の種類がないようだ。
これは知ってる色、これも分かる色、と一つひとつ候補を消していけば――最終的に残った一色が、きっとオレンジ色だ。
「花言葉は――……なんだろう、これ」
色も分からなければ、書かれた言葉の意味も知らないものだった。ここまで来て、そんなことある?
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