転生守銭奴女と卑屈貴族男の本館事情 24
お義母様との話し合いが終わって数日。わたしはもんもんと、お義母様との距離をどう詰めようかと考えていた。
あんまりぐいぐい行っても迷惑だろうし、その割に信用されるかといったら微妙なところ。それに、何かあっては王子に立ち会って貰ってまでした意味がない。……いや、流石にないとは思うけどね。王子の仲介の元、何もしない、って取り決めたんだし。
こういうのは、わたしから、信じてるからね、と心を開いた方がいいと思う。警戒している人間が、一方だけを信用させようとしても失敗するのは目に見えている。
ディルミックの場合は、ベッドが一緒だから寝るのも一緒、会話もすれば、肉体的な触れあいもあったし、そもそも同じ館に一日中一緒にいるのだから、交流がかなりあった。
でも、お義母様は本館の方へ行かないと会いに行けない。しかも、本館のどこにお義母様の部屋があるのかも知らないし。
仲良くなろうにも、お義母様のことをなにも分からないのだ。知っていることと言えば、花が好きなことと、周りからあれこれ言われてふさぎこみがちになってしまったけれど昔はそうでもなかったということくらい。
花――花、かあ。
わたしはあまり花に詳しくない。マルルセーヌ出身の人間なので、工芸茶や、お茶の香りづけに使われるような花だったらよく知っているけれど、きっとそういう『好き』じゃないだろう、お義母様のは。
先日用意した花の香りづけをしたお茶に反応していたから、全く興味がないわけじゃないだろうけど、あれは花の香りに気を取られただけだろうしなあ。
とりあえず、文通から初めて、お義母様が落ち着いたら直接会う、という方針の方がいいのかな。
そんな風に結論付けて、今度はどんな文面なら角が立たずに受け入れてもらえるだろうか、と考えていると――。
「奥様、おど、お届け物です」
――そんな風に、手紙と花束を持って、チェシカがやってきた。彼女が来た、ということは、本館からだろう。
花束、と言っても、ほんの数本のもので、可愛らしくまとまっている。オレンジ色が鮮やかな花だ。なんの花なのか、さっぱり分からない。
誰から、とチェシカに尋ねようととしたところで、バタバタと足音が聞こえてくる。
「チェシカ! あんた、これも奥様に――、ッ! も、申し訳ありません!」
すでにわたしとチェシカが話していると知らなかった様子のエルーラが、怒り心頭、とばかりに走ってきていたのに、急に顔を青くした。
「大丈夫、気にしてないよ」
二人のためには、あんまり甘やかしてはいけないと分かってはいるんだけど、エルーラがあんまりにも可哀想なほど慌てているので、ついそう言ってしまう。
わたしが全く怒っていないことに安心したのか、少し顔色がよくなったエルーラから、わたしはチェシカが忘れたという、渡すものを受けとった。
それは、一冊の図鑑だった。
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