転生守銭奴女と卑屈貴族男の本館事情 22

「そん――」


「嘘じゃないです。ちゃんと、ディルミックの子です」


 きっと、また、嘘、と言おうとしたのだろうお義母様の言葉に、重ねるようにして口を開く。……やば、普通にディルミックのこと、呼び捨てにしちゃった。でも、お義母様は呼び捨てにしたことに気が付いていない。もしくは、そんなこと、気にしていられないか。


「――貴女が、ディルミックの子を産んだら信じると言ったのだろう? 貴族ならば、発言には責任を持て」


 わたしを援護してくれるように、王子が言った。


 お義母様は、何か言いたそうに、でも、それができなくて、唇を震わせている。拳を強く膝の上で握りしめ、小さくなっている姿が――どことなく、ここに来たばかりの頃のディルミックに重なって見えた。

 わたしが、ディルミックの容姿を気にしないと言っても、信じてもらえなかった、あの頃の。


 そりゃあ、親子だから、似ていて当然だとは思うけれど――。

 でも、それだけじゃないだろう。


 心無い言葉を投げかけられて、他人を信用できなくなってしまったのは、ディルミックだけじゃなくて、彼女も同じということだ。


「……わたしは、貴女を責めたいわけではないんです」


 わたしの言葉に、お義母様が顔をあげる。その目は、少し、潤んでいた。……強く、言い過ぎただろうか。こっちも、不審者として追い出されたり、危害を加えられたりしたら困るので、必死だったけれど、お義母様もお義母様で、自分を守るのに必死なのだ。


「……もし、わたしが愛を持ってディルミックの隣にいることを信じられないというのなら、それでもいいです。わたしは追い出されたり、危害を加えられたら困るから、今、ここで貴女にわたしの存在を認めて貰おうとしているだけなので」


 王子に来てもらい、不審者でないことの証明にはなったはず。

 ……子供が――守るべきものができたから、焦ってしまったのだ。


 ディルミックにだって、最初から、すぐに信用してもらったわけじゃない。時間がかかった。

 そのことを、今になって、ようやくわたしは思い出していた。……出会ったばかりの頃のディルミックに似ていると気が付くまで、忘れていたなんて。


「貴女がどう感じ、どう思っていても――わたしが、ディルミックを愛して、その彼を産んでくれた貴女に感謝している事実は、ゆるぎません」


 お義母様は目を見開いて驚き――そして、少しだけ、表情が柔らかくなったように、見えた。

 ほんの少しでも、彼女の心に、言葉が届いただろうか。

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