転生守銭奴女と卑屈貴族男の本館事情 23
とりあえず、わたしがここにいることを認めてもらい、話し合いはお開きになった。今は、ディルミックに挨拶しに行く、と言い出した王子と共に別館へと向かっている途中である。本館のメイドとノルテも付き添ってくれているから、断じて二人きりではない。
「――あれでよかったのか?」
ふと、王子が口を開いた。
良かったのか、とは、言わずもがな、お義母様のことだろう。別に信じなくていい、とわたしが言った途端、あからさまに安堵したような表情を見せた彼女が、心の底で本当はどう思っているのか、みなまで言わなくとも分かる。
でも――。
「……いいんです。さっきも言いましたが、何かあったら困るので、この場を用意してもらっただけですから」
欲を言えば、認めて貰いたかった。祝福されるのでも、罵倒されるのでもいいけれど、わたしがディルミックの妻だと、ちゃんと信じてもらえたら、どんなによかったか。
でも、現実はそんなに甘くない。
「人の心なんて、そんな簡単に変わらないものです。また一つ、勉強になりました」
なんて言えるくらい、無事に終わったのがなによりである。王子がいなかったら、もっと話がこじれていたかもしれないし、そもそも、話を聞き入れてもらえなかったかもしれない。わたしがディルミックの妻だと言った直後、完全にわたしの言葉が届かなくなっていたから。
「――それより、そちらこそ良かったんですか。あんなこと、言ってしまって」
わたしがここにいて、何か不都合が起きたら、王子が責任を取る。
そんなようなことを、王子は、自ら言った。その言葉があったからこそ、お義母様も、わたしのことをこの家にいてもいいと、認めてくれたのだろう。
今の彼女にとって、きっと、わたしの言葉より、王子の言葉の方が信用に足るはずらから。
「君たちの結婚式を見届けた王族の務めだからね。人を見る自信はあるさ。君は、下手なことをしても悪いことをするような人じゃない」
……それは信用されていると思っていいんだろうか? まあ、自分の、ここ一年の行動を振り返って見たとき、考えなしや常識なしでの行動がどう周りから見られているか、と思えば、反論はできないけれど。
「それに、ディルミックに貸しが一つできたからね。頼みたいことがあったんだ」
「えっ」
善意からの行動だけじゃないとは思っていたけれど、そんな思惑があったなんて。変なこと、ディルミックが頼まれたらどうしよう……。
「この程度の貸し借りだから、そんなに大事なものは頼まない」
わたしが顔色を変えたのがそんなに面白かったのか知らないが、王子が笑いながら言った。……ぐっ、世話になったのは事実だから、強く言い返せない。
「――……あんまり、嫌がるようでしたら、やめてくださいね」
「分かっているさ。――おや、噂をすれば」
本館と別館を繋ぐ渡り廊下。それを半分以上歩き、別館の方へ近付くと、渡り廊下から別館に入れる扉の前に、ディルミックが立っていた。
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