転生守銭奴女と卑屈貴族男の本館事情 21

 終わりの見えない堂々めぐりに、段々とイライラしてきた。勿論、すぐ隣に立場の上の人間がいて、目の前にはわたしたちの関係を納得――というか、理解してほしい人間がいる。怒鳴り散らして終わるなら、いくらでも頑張って声を張るが、それで下手に刺激してしまっては元も子もない。


 普通に見えて、それこそ義叔母様と同じような貴族だという印象をうけたお義母様。

 しかし、先ほど、嘘だと呟きながら、わたしの言葉が届かなくなってしまったところを見ると、全てが全て、健全に見える通りではないのだと感じさせられた。あんまり強く出るのは最善策ではない気がするが――じゃあ、もう、どうしろっていうんだ。


「――……どうしたら、信じてもらえますか」


 段々と、疲れを隠せなくなってきたわたしは、思わず言ってしまった。

 毎日通って説得し続けろというならそうするし、他になにかやって、信じるというならわたしはそれをする。


 とにかく、今日しかないのだ。王子の予定もそう簡単にあわないだろうし、ここまで来たら、流石にもう、新人メイドだとは思うまい。

 明日からも平穏に暮らすには、今、ここで、わたしがディルミックの妻だと認めさせ、決して敷地内をうろつく、金目当ての不審者だと思われたままにしないことしかないのだ。


「――……あの子の子供を産んだら。次の跡継ぎ候補ができたのなら、私も信じましょう」


 ――……。

 ……いや、いるんだよなあ。今、わたしのお腹の中に。


 えっ、これ言っていいの? わたしは思わず、王子の方を見てしまった。微妙な空気が、わたしと王子の間に流れる。

 グラベイン貴族は、ギリギリまで妊娠を隠すことが多いという。でも、ぶっちゃけ、わたしのお腹は隠せていないと思う。分かりにくい、というだけで、察しが良ければ妊婦だと気が付くだろう。実際、王子はなんとなく、わたしが妊娠していることに気が付いているようだった。

 しかし、お義母様の方は、ディルミックの子供を孕む女はいない、という先入観があるのか、わたしのこのお腹をただの脂肪だと思い込んでいるらしい。


 王子の言葉に、結婚式を挙げた事実。そして、子供が加われば、ようやく信じられる。

 言葉としては、納得できるけど……ここまでくると、逆にこっちがお義母様が信用できなくなってくる。

 他の男との子供をディルミックの子供にしようとしている、とか、そういうこと言ってきそう。


「――……います。今、ディルミックの子が、ここに」


 わたしは迷った末に、言ってしまうことにした。軽くお腹を撫でる。

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