転生守銭奴女と卑屈貴族男の本館事情 20

 最低限の衣食住は別として、個人的に買ってもらったものと言えば、基本は勉強のための文房具と本、後は茶葉。たまにクッキーを作るために材料を厨房から分けてもらっているけれど、それはどうカウントしたらいいんだろう……ノーカン? 作ったクッキーはディルミックに振る舞っているけれど、わたしがわざわざクッキーの材料だけをねだるということはしないので、出どころは厨房だとディルミックも分かっていると思うけど。二人分、多くてもたまにベルトーニがちょっとつまむくらいで二・五人分。頻度だって、ディルミックをお茶に誘うと決めたときくらいしか作らないからそう何度も作らないし、金額的にはそこまで大きくないはず。多分。


 カードゲームとか、ボードゲームとかは最初に買ったっきりだし……。家具も散財には入らない、よね……? 必要になったら買うって最初から言われていたし。コンロ周りは我がまました自覚はあるけど、好きにしていいってディルミックは言っていたから、ギリギリ必要経費。最初に買ってもらったものを使い続けているので、無駄遣いではない、決して。


 こちらに来てから買ってもらったものをいくつも頭の中に思い浮かべるが、そこまで、散財、というようなことはしていないと思う。というか、これを散財と言われたら、カノルーヴァ家の財布事情が心配になってしまう。


 貴族家の買い物だから、一つひとつが質のいいもので、金額はそれなりにするのだろうけど、どれもこれも必要なものばかり。生活必需品で貴族家が傾く、なんて、元平民のわたしからしたら、想像もつかない。

 無駄にお金を使うことは悪だけど、必要なことにお金をかけるのは決して悪いことではないはず。そりゃあ、お金をとっておけるなら、それに越したことはないけど。


「ドレスと宝石以外ですと、勉強道具と、趣味のお茶のための茶葉と……」


 わたしは一つひとつ、お義母様に説明しながら、思い出せる限りの、普段買ってもらっているものを上げていく。どれもこれも、なんてことのない日用品ばかり。だって別にドレスとか宝石とか、欲しくないし……。

 贅沢品からはかけ離れたラインナップに、お義母様の表情はどんどん曇っていく。

 そ、そんな変なお金の使い方してるかな……と不安になったのだが。


「……やっぱり、嘘でしょう? そんな程度の買い物、平民として生きていてもできるでしょう。あの子と結婚する条件には釣り合わないわ」


 気が付けば、振り出しに戻っていた。

 嘘じゃん……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る